第24話 浮浪者
斜陽街には浮浪者がいる。
何人いるかは把握されていない。
浮浪者は自分である証を失った者。
誰でもない者だ。
電網系などが斜陽街に来ると、時々情報を盗まれることがある。
浮浪者はその情報を使って、誰か別の自分になりすまそうとしているのだ。
ただ、浮浪者達に大した技術があるかというとそうでもないので、
今の所なりすますのに成功した例は聞かない。
或いは気付かれないだけで、もうなりすましがいっぱいいるのかもしれない。
「電網系が一番楽だね」
ある浮浪者はそう言う。
「自分である証が少ないからね」
「俺は誰かになりたいんだ」
「このまま誰でもないまま死んでいくなんて嫌だ」
浮浪者は悲痛にそう言う。
「誰かになりたい。生きた証が欲しい」
たとえば、浮浪者が一人、情報を盗んでなりすますことが出来た。
そうすると、情報を盗まれた者は新しい浮浪者になる。
浮浪者はいつでも情報を狙っている。
悲痛に叫ぶ浮浪者だって、情けをかけようものならたちまち情報を奪われる。
叫ぶそれは本音なのかもしれない。
その本音だって信用できない。
あまり浮浪者に近づくものではない。
「かわいそうと思うなら情報をくれよ…」
路地裏からそんな声が聞こえたら要注意だ。
その声は男とも女とも区別がつかず、
若いのか老いているのかも区別がつかないという。
「なぁ、あんた情報に満ちているだろ?少しくらいあんたの情報をくれよ…」
ここで情報を与えると、貴重な情報まで持っていかれる。
彼等は情報に飢えている。
誰かになりたくてしょうがないのだ。
浮浪者は今日も路地裏からカモを狙っている。
鈍そうなやつ、情けをかけそうなやつ。
善人が狙われる。電網系が狙われる。
斜陽街を歩く時は、くれぐれも注意しよう。
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