デブ専は理解されない。

橋元 宏平

デブは可愛い

 突然カミングアウトするけど、あたしはデブ専女子。


 あたしの中で「デブ」は、半分褒め言葉になっている。


 でも、デブならなんでも良いってワケじゃないのよ。


 デブはデブでも、あたしなりにこだわりがある。


「デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ」とか笑う、キモオタデブは論外ろんがい


 っていうか、笑い声なの? それ。


 どうやって発音してんのか、逆に教えて欲しいわ。


 そういうデブって、なんか臭いし汚いしキモいんだもん。


 悪いデブは、近寄りたくない。


 良いデブってのは、ぬいぐるみみたいな可愛いデブのことよ。


 小綺麗こぎれいにしているデブは、良いデブ。


 柔らかくて吸い付くようなもち肌は、ずっと触っていたくなる。


 適度に弾力のある、すべすべぷにぷにのおなかは至高。


 おっぱいじゃなくて、おなかがあたしの性癖。


 タヌキ腹も三段腹も、どっちも好き。


 それにデブは体温が高いから、抱き着くとあったかい。


 コタツみたいに人をダメにするデブが、最良のデブなのよ。


 背が高いムキムキマッチョなイケメンなんて、興味ないね。


 最近、なんでもかんでもイケメンイケメン言いすぎじゃない?


 そもそも、男のどこが良いの?


 男ってなんか不潔だし下品だし、最低。


 その点、女の子は良いわよね。


 可愛いし、綺麗だし、清潔感があって、良い匂いがするもん。


 もちろん、顔は良いに越したことはない。


 あたしはどちらかというと、綺麗系より可愛い系が好き。


 あたしの理想の可愛いは、一般の可愛いとは違う。


 見てると癒される、くまのプーさんみたいな愛嬌あいきょうさが好ましい。


 そう、あたしの求める理想のデブは、くまのプーさん。


 あたしはプーさんの親友、ピグレットになりたい。


 ピグレットはピンクの小ブタで、プーさんのおなかの上で寝ている。


 子供の頃、ピグレッドがうらやましくて、あのふくよかなおなかの上で眠るのが夢だった。


 高校に入って、その夢が叶った。


 同じクラスの美琴みことは、あたしが求める理想のデブだった。


 眉毛はくっきり、目は小さめ、ダンゴっ鼻、大きな口。


 プーさんに似た、愛嬌あいきょうのある顔。


 スキンシップが好きな娘で、ベタベタくっつきたがる。


 あたしも美琴みことを触りたい放題なので、好きにさせている。


 ぷにぷにもち肌の揉みごたえは、最高。


 おっぱいもおなかも良い弾力だんりょくで、抱き心地ごこちが良い。


 美琴みことのおなかに顔を埋めたら、めっちゃ気持ち良かった。


 プーさんのおなかの上で幸せそうに眠るピグレットの気持ちが、今なら分かる。


 これよ、あたしの求めていたおなかはこれなのよ。


 あ~……ずっとこうしていたい。


 ところが、あたしのささやかな幸せを妨害する敵が現れた。


 あたしと美琴みことと、いつも一緒の仲良し三人組の奈緒美なおみ


 奈緒美なおみは、スレンダーな綺麗系女子。


 つい最近まで、デブの触り心地ごこちを共感する仲間だった。


 なのに今日突然、美琴みことに「ダイエットしない?」などと言い出した。


 思わず、耳を疑ったね。


「は? アンタ、何言ってんの?」


「だって……太ってんのって、体に悪いじゃない? だから、美琴みことも痩せた方が良いんじゃないかと思って」


 言い訳するように、奈緒美みことがしどろもどろ言った。


 さては、昨日テレビでやってた健康番組で、いらん情報を刷り込まれたわね?


 デブは、体に悪いに決まっている。


 高血圧や高コレステロールになり、病気のリスクが高まるのは、もはや常識。


 でもデブは、痩せられないからデブなんでしょ。


 だったらとっとと諦めて、あたしの幸せの為にデブっときなさいよ。


 大きな口を開けて美味しそうにいっぱい食べるデブは、見てるだけで癒されるのよね~。


 ダイエットなんてされたら、至福しふくのぷにぷにもちもちがなくなっちゃう。


 なんとしても、ダイエットを阻止しなければ。


美琴みことは、このままで良いんじゃない?」


「痩せたら、絶対可愛くなるから」


美琴みことは、痩せなくても充分可愛いでしょっ」


「痩せたら可愛くなる」は、ダイエットの常套句じょうとうく


 デブ愛好家としては、許せない。


 なんで世間は、デブの良さが分かんないのよ!


 平安美人へいあんびじんは、デブが条件だったでしょっ!


 いつから、美醜びしゅう逆転したのかしら?


 すると美琴みことが窓ガラスに自分の姿を映して、ため息なんて吐いている。


「……やっぱ、痩せた方が良いのかなぁ……」


「ほら見なさい! 美琴みことが早くもデブ、気にしてんじゃないっ!」


 これで美琴みことがダイエットなんて始めた日には、あたし泣くわよ。


 美琴みことのつぶやきを聞いて、奈緒美なおみ嬉々ききとして身を乗り出してくる。


「だったら、私も協力するから今日からダイエットしない?」


美琴みことは、デブのまんまで良いのよ! ダイエットなんて、絶対させないからっ!」


 この日から、デブ保持派のあたしと、ダイエット推奨派の奈緒美なおみの攻防戦が始まった。


 負けられない戦いが、ここにある。

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デブ専は理解されない。 橋元 宏平 @Kouhei-K

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