綺麗な薔薇には棘がある④
「マリちゃんは変わってるねえ。大体の人はさ、あたしが完全無欠の
「知らないわよそんなの。あたしは負けず嫌いで気難しい井浦さんのほうが好きだもの」
「それはマイナー志向なことで」
にやついた井浦が茶化すと、なによそれ、と
来てくれると思った、なんて大嘘だ。浜崎を追って
あるいは鞠佳が、浜崎が正藍寺に移ったことで傷ついていたとして――それにしても、井浦のいるチームを目指す意味はどこにあるのか。
「マリちゃんは、海玲に勝ちたい?」
率直に問えば、鞠佳はしばしぽかんと井浦の顔を見た。見開かれた大きな目に、困惑と怒りとが順番に映し出される。
「……今になって何言ってるのよ。だって、あんたが勝つって言ったんじゃない。海玲さんごと叩くんだ、って」
とうとう後輩の目が潤み始めたところで、井浦はようやく理解する。
ああそうか、と思った。この子は、ステージ裏から出て来られなかったあの日から、ずっとこうして泣きたかったのだ。出し抜けに訪れた理解はまるで突然で、前触れのひとつもなくて、けれど気付いてみれば疑いなく納得できるものだった。
幸か不幸か、浜崎が井浦に進路を告げた瞬間に居合わせてしまった鞠佳は、井浦の宣戦布告を真に受けて今ここにいる。自分の発言で花ノ谷を選ばせてしまったのなら、やはり井浦には勝利を目指す責任があるのだろう。
「鞠佳、海玲のこと嫌いになった? なれるわけないよね。まあ、あたしは今でもあの野郎~って思ってるけど! でも、だから――あたしは、海玲が選んだチームに勝ちたいわけ。あいつがあたしたちより正藍寺を取ったなら、その強い正藍寺を負かしてやりたいじゃない? だからこれは、純粋に一番になりたかった園部の時とはちょっと違う。ただの憂さ晴らしだし、八つ当たりとも言うね」
「あんたはなんて言うか、自分に対しても皮肉っぽいわよね」
ごしりと乱暴に目の下を擦った鞠佳が妙に的確なことを言う。力なく笑った井浦は、すっかり長い付き合いになった後輩と目を合わせた。
「ごめんね、あたしが海玲とやるんじゃなくて。本当だったらここで海玲に勝って正藍寺に勝ちたいけどさ、そんな贅沢言えるほど強くないから」
あれだけ威勢よく啖呵を切っておいてその浜崎との対決を避けるなどお笑い草だ。我ながら無粋だとは思うが、井浦は冷静に自分の力を見定めていた。
どれほど格好がつかなくとも、これが勝ちに行くうえで最良の判断だと井浦は思う。もっとも、最後は平原に懸けるしかなくなってしまったけれど。
「だからまあ、鞠佳はむかついてるかもしれないけど……あたしは本気で優勝するつもりでいるから。こんなチャンスはもうないし、せっかく手を抜いてくれるならしっかり勝たせてもらわなきゃね」
許してくれるかなあ、とわざとらしい猫撫で声で尋ねれば、当たり前じゃない、と鞠佳が呟く。心優しい後輩に報いるためにもまずはダブルスで一応の結果を出すとしよう。井浦は満足げに頷いて、カラーゴムで結んだ癖毛を指に絡ませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます