300%カウンターH•W•D‼︎

[あらすじ]

バレンタインデーに婚約者フィアンセ唄羽うたはからブラウニーをもらったたける

『お返しに何をプレゼントするか?』

武が頭を悩ませているうちに、早くも一ヶ月が経過していた……。


 3月14日。都内某有名デパート一階、特設コーナー。


(ここにいるみんなたち、まだホワイトデーのお返しが決まってないんだな……。フフフ、俺もそうなの……)


目の下にクマをたたえ、死んだ目をした男――火村ほむらたけるがデパートを無為にぶらついている。


(スイーツ……)

『また増えてる……ダイエットせな……』

(……はダメだな)


唄羽のぼやきを思い出し、武は足早にスイーツコーナーから遠ざかる。


(アクセサリー……。付けなくてしまってるだけでも良いなら、やっぱり金のネックレスとか……)


そこまで考えて、武はある事を思い出す。


(いや、高校生に金のネックレスは……重い‼︎色々と‼︎)


それに、唄羽は金のネックレスなんて高価なものを受け取ろうとはしないだろう。


(うう……。良いアイデアだと思ったんだけどな……)


武は泣く泣くアクセサリー売り場から立ち去った。


(コスメとかどうだろう。まだまだ乾燥するし、リップクリームとか……)

「何かお探しですか?」

「ヴァっ⁉︎」


コスメコーナーの店員に声をかけられた武がひかえめな奇声をあげる。


「あ、あの……。りりり、リップクリーム、を、探してまして……」

「それでしたら、こちらがオススメですよ」


そう言って店員が勧めてきたのは薄いピンクのリップクリームだ。


「あ、いや……無しょ、いや、えっと、色のないやつは……」

「はい!ございますよ。こちらの商品のカラーバリエーションで……」


あれよあれよと言う間に、武はデパコスのリップスティックを手に持って売り場を後にしていた。


(な、なんとかお返し確保できた……。これならきっと唄羽も納得してくれるはず……)


 そんな事を思っていた武だが、すれ違った女性二人組の会話をふと耳にしてしまった。


「でさー、彼氏がお返しでリップ渡してきたんだよ」

「マジで⁉︎リップだけ⁉︎ないわー」

「ねー。ホワイトデーのお返しで一万以下とかマジでやる気ないよねー」


すれ違った二人はどう見ても夜の接客業だったが、愕然がくぜんとしている武の視界には1ミリも入っていない。


(そ、そんな……!)


瞬間。武の脳裏によぎる、『存在しない』冷たい唄羽の視線。


『え?こんだけ?たけさん、うちの事こない安い女やと思ってはるんや、ふうーん……』


読者諸賢には誤解のないよう言っておくが、断じて手奈土唄羽はこのように贈り物にケチをつける人間ではない。武が勝手に最悪の想像を展開しているだけである。


(これじゃ足りない!何か、何か追加でプレゼントを……!)


武は必死の形相でデパートを物色する。


(何か……高級感があって、かつ、重くなくて、それから、唄羽が喜んでくれそうな……)


武の足がデパート地下の生鮮食品売り場で止まる。


(こ……。これだっ!)


武の頭に勝利の方程式が駆け巡った。



 その夜。


「どうぞ、食べて」

(豆腐は低カロリー高タンパク。そして豆腐に含まれる大豆イソフラボンは女性ホルモンに似た働きをし、美肌やガン予防に効果がある{俺調べ}……。これなら唄羽も喜んでくれるはず!)


食卓に向かう唄羽。その向かいに立つ、やり切った表情をした武。


「冷奴、と……。湯葉?」


机には鍋の中でふつふつと踊る生湯葉、そして小鉢に入った冷奴が並んでいる。


「えーっと……。お豆腐屋さんが、来はったんですか?」

「ゑっ」


豆腐料理を前に困惑する唄羽。予想外の反応にフリーズする武。


「いや、あの……。ブラウニー、もらったから……」

「あら、よかったですね。あとでいただきましょう」

「違くて、ほら……。今日、ホワイトデーだから……」


唄羽がカレンダーに視線を向ける。


「ああ!ホワイトデー!」


怪訝けげんな表情だった唄羽が柔らかい笑みを浮かべる。


「なるほど、ホワイトデーだから白いお料理……。ふふっ、洒落てはりますね」

(うーん、喜んでもらえたけど……。なんか思ってたのと違うな……?)


 料理を食べ終わった唄羽が立ち上がる。


「ん……?」


武の部屋から転がり出ているデパコスのショッパー。


「あの、これは……?」

「そ、それは……」


武が頭をかく。


「リップ。色なしの」

「……誰から、ですか?」

「え?」


不安そうな顔をする唄羽を見て、武は慌てて袋を差し出す。


「違う違う!買ったやつ!一応、ホワイトデーのお返しに、と思ってたんだけど……」

「えっ!」


袋を受け取った唄羽が目を輝かせ、ギュッとそれを抱きしめる。


「あっ……。ありがとうございます!大切にしますね!」


唄羽は工芸品のように輝くリップスティックを手に取り、電灯に透かして眺めている。


「綺麗だ……」

「はい!ほんまに綺麗ですね」


かくして、武と唄羽のホワイトデーは大成功に終わったのであった。めでたしめでたし。

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