視察・牧場、鋳物師
妙と別れて次にやってきたのは、村の南にある牛と豚を育てている牧場だ。俺と自来也はしっかりとした柵に囲まれている牧場の管理者小屋の入口に立ち、中に向けて自来也が声をかける。
「甚八! 十川様がおいでくださったぞ!」
小屋の中から何かが暴れるような音が断続的に響き、数十秒ほどして髪がグシャグシャの甚八が現れた。こいつは志能便の一人で、村に住む俺の手足の一人でもある。
「へぇ、お待たせしました。それにしても十川様、先ぶれもなくどうしてこんなところに」
「俺の事業なんだからこんなところ呼ばわりはやめよ。今日は真面目にお前が働いているかの視察に来たんだ」
「だったら大丈夫ですね! 俺、真面目に働いていますから!」
こら自来也、白けた目で見るのはやめなさい。
「今の時間は放牧から畜舎に帰している途中でしょうね。少し歩きますがよろしいですか?」
「構わんよ。自来也も移動中に改善できるところがないかよく見ておいてくれ」
「承知しました」
甚八が先行するまま三人で牧場の敷地内に入り、山裾まで広がる放牧場から畜舎に追いやられる牛と豚を見る。
うーん、牛は少し、豚はかなり腹が大きいな。現代の農家から譲ってもらった時に豚はもうすぐ産まれるって言ってたけどあと何日ぐらいで生まれるんだろう。確か豚は百二十日前後で出産するんだよな。
「兄御、牧場の収益って……」
「お察しの通りだ。牧場は今のところは目立った利益は出てない。牛乳も食肉も子供が産まれてからになるからな。現在は金だけ垂れ流している状態だ」
初期投資が尋常じゃないぐらいかかってる、早く現金になってくれないかな。
豚と牛の購入費用だけで二千万近く吐き出してんだ、失敗は許されない。
「子牛が産まれたら牛乳が取れるようになり、乾酪・牛酪が作れる。村の産物も増えて、村は豊かになる。これは必要な投資だったんだ……」
「兄御、俺の頭じゃ理解できませんが血を吐きそうなお顔で言う言葉じゃないと思います」
口座には九千万以上残ってるけどよ! 根っこが小市民だから五桁以上の金の動きはゲロ吐きそうになるんだよ! あー! 札束の山に埋もれてぇ!
◇
牧場は特に何も問題はなかったので、人間用の消臭剤だけを渡して視察を終了した。
今は頭数が少ないのでそんなに臭いはしないが、数が増えてきたら場所自体をもう少し南に移さないといけないかもな。
「次はどちらへ?」
「鋳物師のとこだな。そのまま水鳥牧場に向かう」
牧場から北に向かい、鋳物師の小屋に向かっていると自来也が行き先を聞いてきた。歩いている方角的に鋳物師が住む山の中腹に向かうしかありえないが。
あぁ、水鳥牧場には親父の黙阿弥がいるからか。あいつ全然村に降りてこないし、久しぶりに会いたいのか? こいつ基本的に俺かガキンチョたちに張り付いてるから自由時間とかないしな。
しょうがない。ちょっとだけ親子の時間を作ってやるか。
「自来也」
「なんでしょうか兄御」
「お前は先行して水鳥牧場に向かえ。羽毛布団を明日手土産で持っていくから運搬の準備をしていろ」
「承知しました!」
俺の言葉に一瞬で笑顔になる自来也。うん、わかりやすくてよろしい。
猛スピードで山の水鳥牧場へ走っていく自来也を見送って、俺は鋳物師の小屋へ向かう整備された道を歩き出す。
整備と言っても現代とは違い人の手によって踏み固められたものだ。田舎に住んでいる俺にとってはアスファルトよりは見慣れたものだけどな。
十数分ほど山への道を上り、切り開かれた山の中腹にある鋳物師の小屋に到着した。小屋の周りには乾燥途中の木がまとめて置いてある。冬場にむき出しのまま放置していると逆に湿気そうだと思うのは素人だからだろうか。
「おや、十川様」
「精が出るね親方」
小屋の外でそんなことを考えていると、中から金槌を担いだ親方が身体を伸ばしながら出てきた。
鋳物師とはいっても年齢が五十過ぎの彼、爆発してしまった村人口のことも考えてあまり負担をかけないよう、鍋や釘などの日用品は俺が現代から持ち込んでいる。
では、彼は何を作っているのか。それはもちろん。
「試作品はできております」
「おお、流石だな」
一五二八年の日本にまだ存在しないもの。火薬を伴った兵器だよね。
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