2-8 勉強会(皇国の歴史)

 結果から言うと、僕は歴史学と社会学がギリギリ。今年の問題に次第では落とす可能性がありそうだ。

 一方、カエデさんは…以外にも優秀。落としそうなのは数学の一教科だけだった。

 その結果にハルエさんやマチカさんは胸をなでおろしていた。


「それでは重点的に数学の勉強しましょう。私の部屋に行きますわよ。」


 そう言って、ハルエさんはがっしりとカエデさんの腕を掴んで自室に戻っていった。なんだか捨てられた子犬の様な目をして僕に訴えてたけど、僕も自分でやらなきゃいけないことがあるからね。頑張って。


「皇国の歴史については問題なさそうだけど、歴史学は他国関係と社会学の各地方の知識部分が不足してるのか…

 うん、これならなんとかなりそうだね。」


 僕の模擬試験の結果を見て、マチカさんはそう分析をした。


 …それはそうですよ。そもそも地方の中学程度だと、他の大陸の歴史なんて必要無いですし、社会学の一般的教養は地元の産業や迷宮ダンジョンの話が中心になるのが当たり前じゃないですか。もっともワースの迷宮ダンジョンは未だに謎が多いみたいだけどさ。


「他国の歴史は、僕もつまづいたなぁ。でもこれならなんとかなりそうじゃないかな?」


迷宮ダンジョンの特産物なら、俺が教えれそうだな。ゴーレム素材の収集にはその情報は欠かせないからな。

 そういえば迷宮ダンジョンに入るのが厭で、野菜だけでゴーレムを作った卒業生もいたって話もあったな…本当かどうかはわからないけどね。」


 野菜ゴーレム…? その話詳しく聞きたい気もするけど、今はとりあえず認定試験の対策だ。


「じゃあ、歴史については僕が面倒を見ようか。」


 マチカさんがそう言ってくれた。その時、ここまでずっと黙っていたアヤが口を開いた。


「私もハルトさんと認定試験の勉強をします。」


「アヤ様には必要ないと思うのですが。

 それに、こんな不埒な輩と勉強するのですか? 駄目ですわ。そんなの絶対ダメですわ。」


 サキさんが強烈に反対する。

 間違いなく僕を敵視しているね。昨夜言われた小太郎と小次郎の餌にするという話は僕も忘れていません。


「なぁ、サキ。部屋で勉強するんじゃなくて、ここでやればいいだろ。」


「…お兄さまぁ… それでもですわ!」


「心配なら、サキも一緒に教えればいいじゃないか。

 いずれにしてもカエデとハルトがアヤお嬢様と同じ講義に出れるようになればいいだけだし。

 そんな事ばかり言ってると、アヤ様から嫌われるぞ。」


「…お兄さまぁ… アヤ様ぁ………」


 アヤもいつの間にかサキを睨んでいた。 



 翌日から日中は各講義へ出席して、再確認の為に初歩的な講義を受ける。そしてそれぞれの初級認定試験の範囲の確認をする。

 寮に帰って来てからは、試験対策の勉強をする日々だ。


 エモリさんの話は面白くわかりやすかった。僕自身が興味があるので余計にそう思えたのかも知れない。おかげで各地の迷宮ダンジョンの場所や特産物、そこを治めている80家をうまく関連付けて覚える事が出来たよ。

 各地の迷宮ダンジョンで興味を引かれたのは、最北の大雪迷宮タイセツ・ダンジョン、とにかく食べ物関係が多いらしい。迷宮ダンジョン内に大きな川があって、そこで取れる魔魚はとにかく美味しいという。

 ただ、凶暴な火熊という魔物がいて毎年数人がその被害に遭っている。ただその毛皮は発熱性があり、北国で暮らしていくのに必須の素材だという。ワースの冬は寒いから、いつか火熊の毛皮を送ってあげたいな。


 それに対して、マチカさんが教えてくれている他国の歴史… そっちはなかなか頭に入ってこない。


--------------


 【ニホ皇国歴 ~元年】

 最初は小さな部族だった。そこに生まれた一人の男が周辺部族を統一、国を造り拡大していった。

 武勇帝と呼ばれたその者は、野獣の住む深い森を切り開き、時にはダンジョンから溢れ出てくる魔獣災害などに脅かされながらも着実に部族の勢力圏を拡大していく。

 やがて部族は大きくなり、国となる。

 だが国作りはうまくいかない、次々に発生する問題に徐々に手が回らなくなっていく。

 行き詰まった武勇帝のもとにある女性が訪れ、新たな仲間となった。


 賢者と呼ばれたその女性が伝えたものは知識。それによって形が出来上がったばかりの皇国に様々なものがもたらされることになる。

 それまでバラバラだった言語の統一を図り、それにより政治・文化・農業・工業が一気に発展する。


 初代皇王となった武勇帝、その妻となった賢者の治政は盤石の体制となり、原初の6つのダンジョンを鎮圧し、敵対勢力も数年後には完全になくなり統一を果たした。


 完全統一がなされた翌年に国名を「ニホ皇国」、こよみは「皇国歴 元年」と定められた。


 統一後に大陸の各地を視察した初代皇王と妻の賢者は、それぞれの土地に新たな名前を付けて廻った。

 新たに命名されたそれぞれの地名は、初代皇王と賢者の強い思い入れがあったとされている。



【皇国歴 108年】

 遥か西の大陸のとある部族の族長の元にノーブという名の世継が誕生、十数年の後周辺部族を制圧し統治者として君臨し、西大陸唯一の王国として覇権を握った。しかしその国、ノーブ王国の内情は統治者に全て依存した脆弱なものだった。

 その最初の王ノーブが没した後、群雄割拠の戦乱時代を迎え、ヤースが再び統一するまでに150年の歳月が流れた。



【皇国歴 267年】

 南の大陸ではある小国にジオという男が現れる。ジオは小国の統治体制を不満に感じ革命を起こして小国の政治体制を議会制度に変革。

 初代公王となりジオ公国を樹立する。

 以降、積極的な交易をおこない、各地へのジオ公国の依存度を高めていった。


 しかしジオ公王もすでに没し、社会が成熟すると議会や行政機関内での汚職が横行し始める。不満を抱えた国民の目をそらすために、時の宰相ビザは戦乱の傷跡が残るヤース王国のある大陸に侵攻を始めた。両国と交流のあったニホ皇国や周辺の都市国家もその戦乱に巻き込まれていく。


 進攻を主導した当時の宰相ビザは国内の反乱で命を落としたが、始まった戦争は長く続いた。その後、幾度かの休戦期間を挟み、終結まで130年にわたる長き戦乱時代が続く。



【皇国歴 439年】

 公国の人々は、何度も巻き起こる戦争と魔獣災害に対応できない国家の体勢に怒りと疑問をいだき地方行政府を巻き込んでいく。

 やがて多くの地方行政府が公然と反旗を翻して、何度目かの内戦に陥ってしまった。


 南大陸の公国は内戦で完全に疲弊し、以前の統治体制は徐々に破壊されていった。さらなる混乱の時代が訪れる予感に、人々は嘆きの声を漏らす。


 そこにシアという男が現れた。

 シアはジオ公の理念を引き継ぎ、内戦を起こしていた勢力を時に吸収、時に壊滅させて、新たな秩序を模索し確立していった。

 シアが首班となり、何年にもわたる粘り強い外交によって、周辺国との確執は徐々に解消していく。


 やがて303年から続いた勝者無き戦乱に終止符が打たれることになる。

 ニホ皇国並びにヤース王国とジオ公国に不可侵条約が制定され、交易が活発になり人々は安堵する。

 交渉をまとめ切って役目を終えたと考えたシアは、人々の前から姿を消した。



【皇国歴 727年】

 戦乱が古い記憶になりつつあった。

 皇国の赤の門レッドゲートを中心に学問所が設置され、各国から優秀な人材が集いはじめた。

 これが皇都学術院の始まりである。


--------------


 皇国が安定し続けているのは初代皇王の定めた治政の制度。

 迷宮ダンジョンからの資源と、それを管理して皇国八十八家の治政力。

 それに庶民にまで至る、きめ細かな教育の結果であると言われている。



 うん。頭がパンクしそうです。

 でもアヤも一緒に勉強しているから、ここで泣き言は言えないな。


 そうして初級認定試験の日を迎えた。やることはやったし、マチカさんも太鼓判を押してくれた。あとはつまらないポカをしなければ。

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