1-10 間に合わないかも!
男は手に持った短剣で、直接アヤを狙って襲ってきた。
僕はとっさにアヤをかばって真正面に立ちはだかると、体に衝撃が走る。
左肩にその刃が突き刺さっていた。左肩がカァっと熱くなり、生ぬるい何かが袖の下で腕を伝っていく。
アヤが小さな悲鳴を上げた。
「今の内だ! 捕らえてしまえ!」
馬車に向かって声をかけると、中からさらに3人の男達が出てきて短剣を抜き放つ。
一度事務所の中に戻ったフナトさんは、騒動に気が付き事務所から出てくる。そして短剣を構えた男達と、アヤを後ろに庇い血を流している僕の姿を見た。
「てめぇら!! 天下の往来で!! なにさらしとんじゃあ!!!!」
そう言って、ドア脇にあった木の棒を掴んで僕の左側に立つ。
「嬢ちゃんとハルトは事務所の中に!
てめーらの相手は俺がしてやるよ!!」
騒ぎに気が付いた組合の警備員たちも、路地の奥からこちらに向かって走ってくる。
「構わん! 全員
襲ってきた男達の目論見は、フナトさんと警備員達がけた違いに強かった事であっさりと瓦解した。
フナトさんと警備員の人たちは、あっという間に襲ってきた男たちを取り囲んで武器を奪ってボコボコにしていく。
わずかな間に襲ってきた男たちは、したたかに打ち据えられ地面に転がされて縛り上げられた。
その時もう一台、黒塗の馬車がこちらに向かってやってきた。
「まだ、次が襲ってくるのかよ…
これじゃ、今日は学術院の手続きで…きそう…に…ない…や…」
肩を押えて横たわる僕の身体の下、血だまりがどんどん大きくなる。僕はそのまま気を失ってしまった。
もう一台の黒塗の馬車、側面にはエスギー家の紋章が描かれている。
騒がしい事務所前に横づけにすると中から黒服を来た一人の男が出てきた、そして木の棒を掴んで立っているフナトさんに話しかけた。
「遅れて申し訳ありません。何とか間に合ったようですね。
途中道を塞ぐように
失礼、申し遅れました。
私はエスギー家の家令イエーカー・キザキと申します。
見事な手際です、さすがメ組の…」
「ここでその名は出さんでくれ。御令嬢なら事務所の中だ。」
イエーカーは会釈をして事務所の中に入っていく。
「アヤお嬢様、御無事で何よりです。」
「イエーカー!! それより彼の! ハルトの治療を!! 早く!!」
「ハルト? はて? どなたの事でしょうか?」
「黙って言うことを聞きなさい。私の恩人です、早く治療を!急ぎなさい!」
「かしこまりました。」
イエーカーは手慣れた感じで止血の処置をする。
「応急処置は致しましたが、ここではこれ以上の治療は出来そうにありません。」
「なら、彼もいっしょに館まで連れて行きます!」
「しかし、御当主様の許可…」
「いい加減になさい! 私が許可します! 早くしなさい!」
しぶしぶイエーカーは馬車にハルトを乗せる。
「イエーカーさんよ。ちょっといいかい。」
「なんでしょうか?」
「このハルトって小僧は、皇都学術院の新入生らしい。
今日手続きに行くはずだったが、そちらの事情に巻き込まれたおかげでこんな有様だ。
それなりにしてくれんと、余計なことを報告せにゃならなくなる。」
「承知いたしました。
元よりアヤお嬢様守って受けた傷というのはあの姿を見れば。当家としても無碍には出来ませんので。」
「襲ってきた連中はこちらで預かる。どうするか決まったら連絡してくれ。」
イエーカーは軽く頭を下げて馬車に乗り込み出発していった。
フナトが事務所に戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。
「組頭! ただいま戻りました!」
「このドアホ! 外で口に出すんじゃねぇ!」
「二人とも戻ったか。
全く朝っぱらから疲れちまった、報告は一休みしてからだな。」
「はい!」「了解っす!」
--------------
おぬしには、残念ながらわずかな力しか与えることができん。
すでに前世の記憶もほとんど残ってはおらぬだろう。
気が付くのが遅すぎた、すまなかった。
おぬしの記憶の欠片は元の世界の記録で補完した。
できうる限りの事はさせてもらった。
幸多き人生を送ることを願っておるぞ。
・・・・
・・・
・・
--------------
気が付くと、僕は見た事もない部屋のベッドに横たわっていた。
徐々に目の焦点があってくる。
天井に魔導灯の照明器具、右側には脚が猫足のように彫り込まれた高そうなサイドテーブル。その上に装飾が施されたガラスの水差し、それとおそろいの装飾が施されたガラスのコップ。
ここはどこだ?
それに、誰かに話しかけられてた様な、なんか変な夢を見た気がする。
今度は左側を見ようを首をひねる。
「痛!!」
左肩に鈍い痛みが走る。
左肩? そういえば、短剣で刺されて… …
そうだ! アヤは無事なのか? あれからどうなったんだ?
まさか、あのまま捕まって…
右手で刺された左肩を軽く触ると包帯が巻かれている。治療してもらったのか?
アヤを追い回した連中がわざわざ僕の治療なんかしないよな。だとすると、アヤも無事にエスギー家の館に帰れたのかな?
それなら安心して、入学と入寮の… !!!
今日は、今は何日だ?? 急がないと!!
身体を起こすと左肩に激痛が走る。
「イテテテ… これぐらい我慢しないと。急いで手続きをしないと!!」
ドアの開く音が聞こえ誰かが入ってきた。
「良かった。お目覚めになられたのですね。お医者様を呼んでまいります。」
「あ! ちょっと待って…!」
行ってしまった。
ここがどこか? 今日は何日か知りたかったのに…。
しばらくすると再びドアが開いて白衣を着た男の人が入ってきた。そしてその後ろに綺麗な服を着たアヤそっくりの… 違う! アヤだ!
「アヤ! 無事だったんだね! 良かった! 本当に良かった!」
「動かないでください。診察をします。
あなたは血を失いすぎました。もう少しで死ぬところだったのですよ。」
白衣を着た男性はどうやら医者のようだ。包帯を外して肩の傷の確認をすると、目の下の粘膜や口の中を見て診察する。
「傷口の化膿もありませんし、貧血の症状もだいぶ良くなってきたようですね。ですがもうしばらく安静にしてください。
今夜から食事を摂っても問題ないでしょう。」
だいぶ良くなった? どれくらい寝てた? あれから何日たったんだ?
まずいぞ! 入学手続きの期限過ぎてるんじゃ!!
僕の寝ているベッドにアヤが近づいてきてベッド脇の椅子に座った。そして僕の手を掴んで、泣きそうな声で
「良かった。ハルトが無事でよかった…」
「僕の事より、アヤが無事で本当に良かったよ。
ところでここはどこ? あれから何日たったの?」
「ここは皇都のエスギーの館。お父様とも会えて話も出来た。
4日も意識が戻らなくて… そのままハルトが…」
そういうとアヤの瞳から大粒の涙がぼろぼろと零れだした。
エスギー家の館か、ならもう安心だな… というか4日だってぇ!!!
まずい、完全に期限を過ぎちゃっている。
「アヤ様、こちらにおられましたか。
おや? お目覚めになられたようですね。」
そう言って黒服のダンディな男の人が入ってきた。
すでに手続き期間が過ぎていたことを知った僕の耳には、彼の言葉は入ってこなかった。
「お身体が治るまで、当家に滞在していただきます。
それと、学術院の入学・入寮の手続きは勝手ながら私が代理で行わせていただきました。」
最後の一言で我に返った。
「???
入学の手続きをしてくれたの?ですか?」
「はい。当家が責任を持って手続きをさせていただきました。」
なんとか首の皮一枚つながっていたらしい。
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