1-9 襲撃者(真)
開いたドアの向こう側にフナトさんの顔が見えた。
僕はほっとして止めていた息をフーッと吐き、張りつめていた緊張がほぐれていくのを感じた。
「もう大丈夫だ。
あいつらやっぱりおれの懐の金をねらってやがったみたいだ。
組合の警備員があっさりと取り押さえちまったぞ。」
「良かった。アヤを狙ってたわけじゃないんですね。」
「まぁ、油断は出来ねぇがな。
倉庫街の中なら、組合の警備員が巡回しているからまず大丈夫だろう。
そろそろ風呂入って寝ろ。明日は学術院まで移動するんだろ、それなりに遠いからな。
おれは諸々の書類整理にもう少しかかるから先に寝ていいぞ。」
フナトさんは階下の事務所に下りて行ってしまった。
緊張で変な汗をかいたから下着がべたついて気持ち悪い、お風呂が使えるなんてものすごく幸運だな。これで安心して眠れるよ。
僕たちは交代で風呂を使わせてもらい、それぞれの部屋に入って眠りについた。
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その日の深夜、皇都のとある建物の一部屋でこんな話が交わされていた。
「エッシゲ様。
令嬢が皇都のアクサの繁華街で目撃されました、
一人の男がゲトラに仕えるエッシゲ・シバタンに向かって報告する。
「やはり船で川を下っていたのか。だが、トーネの方ではなくラア川の方か。
まあ、居場所が分かっただけでも良しとするか。
いずれにしてもそのうちにエスギー家の館に向かうはずだ、その前に監視を続けて倉庫街から出てきたところで捕えてしまえ。
いやまて。
エスギー家の動きを探れ、迎えを出すだろうからなりすまして捕らえてしまえ。
今度は逃がすな、最悪手足の一本ぐらい足りなくても構わん。方法は任せるがあまり目を引かん様にしろ。
それと船舶輸送会社の男にどこまで話が漏れたのか気になるな。それとなく探って余計なことを知っている様なら処してしまえ。」
報告した男が出ていった後に呟いた。
「…これでようやくゲカツを引き摺り下ろせる。
血の濃さだけで上に立っているくせに、力のあるゲトラ様をないがしろにしているなど許せん。」
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一方、皇都のエスギー家の屋敷内は夕方から慌ただしく動いていた。
「御当主様、ガータから通信宝珠板で連絡がありました。
ゲトラ様とカッツナ様が反乱を起こし、ガータの街を占拠されてしまいました。
守備兵の半数以上が打ち取られ、ガータの南東のサジョーの街にて立て直しを図っております。」
「ゲトラとカッツナが反乱だと!」
「はい。ホマーの兵はサダーツ様たちの装備を奪っていた為、ガータの街に入るまで気がつかなかったとのことです。」
「サード島から来たというのか! だが港はこちらが抑えていたはずだ!
ナエツーの代官ネツグとカシワザの代官サダムは何をしていたのだ!」
ドンッ! と机に拳を叩きつけた。
「両名共にカッツナが雇った傭兵に街を襲撃され、防戦している間に港を押えられ上陸を許してしまったようです。
街自体への被害はありませんが、上陸したホマーの兵はそのまま北上。ゲトラ様と合流しガータの街に攻め込んだ模様です。」
「反乱を起こしたゲトラに”様”づけなど要らぬ!」
「サード島で氾濫に備えていたサダーツ様とその兵は恐らく軟禁。
ガータに居たアヤ様は一緒に居た侍女と共に行方が分からなくなっております。」
「な…なんだと! アヤまで行方が分からぬのか!」
次々と入ってくる情報は、ゲカツにとって好ましいものでは無かった。
「通信宝珠板にて連絡!
カシワザの港町の代官サダム様が街を襲っていた傭兵を殲滅、サジョーの街に合流して指揮を執るとのご連絡。
ナエツーの代官ネツグ様も傭兵を殲滅次第サジョーに向かうとのご連絡。」
「わしは皇城に上がって、皇王に御報告をせねばならん。
イエーカー! 各地の状況の確認を怠るな。
事によったら、わし自らガータに向かうやもしれん。」
ゲカツは家令のイエーカー・キザキにそう告げて急ぎ登城の準備を始めた。
館を出る直前に慌てた様子の家令のイエーカーが駆け寄り報告をする。
「御当主! 御当主!!
ニワバン衆のハンゾ様から連絡がありました!
行方不明だったアヤ様の行方が分かりました!」
「本当か! どこだ! どこにいるんだ!」
「皇都東のミーダ倉庫街で保護されております。」
「なんだと!そんなに近くにいたのか! 無事でなによりだ。
明日の朝一番で迎えを出せ! ニワバン衆への連絡も任せる。
今夜はわしも帰ってこれぬやもしれん。頼んだぞ!」
ゲカツは大急ぎで用意されていた馬車に乗り込み登城していった。
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朝日が差し込み目が覚めた。見知らぬ場所に思わずしょぼついた眼で周囲を見回す。そういえば、フナトさんの家に泊まらせてもらったんだっけ。
居間に行くとフナトさんはすでに起きていて、朝食を作っていた。メニューは焼き魚に卵焼きそれに漬物とみそ汁。本当に器用でまめな人だな。
「おはようございます。フナトさん。」
「おう、おはよう。
今日はいよいよ学術院だな。気が変わったならいつでも雇ってやるぞ。がはは!
ほれ、約束の給金だ。」
まだ諦めてくれてないみたい。でも、昨日あんなに食べたのにいいのかな?
「そういやぁ、昨日の夜遅くにエスギー家からの迎えが朝のうちに来るって、組合から連絡があったぞ。」
「良かった。これで一安心ですね。」
「ついでに礼金なんかもらえたら、おれも苦労した価値があるんだがな。
何が苦労だったかは思い出せんがな。がはは!」
なんだかフナトさんはわざと明るくふるまっているような気がしないでもない。
「本当にありがとうございます。その件は父に必ず伝えます。
あ、おはようございます。」
ふり返るとアヤがドアを開けて立っていた、ちょうど起きてきたようだ。
「いや冗談だよ。まぁ、褒美があるに越したことにはちげぇねぇけどな。」
そう言ってフナトさんは、照れ隠しのように鼻の頭を掻く。
「さぁ飯だ、飯! 二人とも、ともかくしっかり食っとけよ。
では、いただきます。」
僕たちは3人で揃って朝食を頂いた。
すっかり日も登り切り、柔らかい日差しが降りそそぐ時間となった。ハルトは皇都学術院のあるホンゴに向かう準備を整え、1階の事務所に下りた。
その時、事務所の前から10m程離れた場所に黒塗の馬車が停止する。
黒塗の馬車から降りてきた冷たい感じのする執事が、つかつかと歩み寄ってくる。そしてハルトを従業員と勘違いしたのか、偉そうな態度で「社長を呼べ」と言い放つ。
ハルトが呼びに行く必要もなく、フナトとアヤが下りてきた。
「フナトさん。お世話になりました。
アヤも元気でね。」
「おう、元気でな。」
「ハルトさんも、お元気で。」
別れの挨拶をかわして馬車の脇を通り過ぎようとした。
「アヤ様、お迎えに参りました。」
にやりとした顔で馬車のドアを開け招く執事。
ハルトは嫌な気配を感じ振り返る。そして少し開いた馬車のドアの隙間から、奥に座りながら縄をいじっている人物を目撃する。
「迎えに来た人が、縄? まさか!!
駄目だ! アヤ! 乗っちゃいけない!!」
ある可能性に思い至り、馬車へとアヤ手を伸ばそうとしていた執事とアヤとの間に割って入る。
その瞬間、執事の態度が一変する。
「糞! 小僧、余計な真似をするな!」
そう言うと、怒りで顔をゆがめた執事が上着の内側に隠していた短剣を抜いて切りかかってきた。
一回、二回と切りつけられる短剣をかわす。
「無傷で捕えたかったが仕方あるまい。」
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