☆王宮から『例のあの人』がやって来ました③
宰相のその眼差しが、ボクの記憶の奥深くにある何かに引っかかった。
……が、それが何だったのかは思い出せない。
だけど、この感じ……
宰相から漂う得体の知れない『
ボクは確かに『コレ』を知っている。
何故だろう、これは、思い出さなくちゃいけない事のような気がする……
ヴァリターの胸におでこをトンッと付けると、そっと目を閉じて、自身の記憶を掘り起こし始めた。
深く、深く、過去へと遡る……
そこに広がっていたのは闇。
それと、息苦しさ。
そして、近付いてくる足音……
そこまで思い出した時、途端に強烈な不安感が胸に湧き上がってきた。
ブルリと震える体をヴァリターの温もりに縋って誤魔化しながら、さらに過去の記憶を呼び覚まそうとしていたその時だった。
「ガッロル・シューハウザー……お前に聞きたいことがある」
さっきまで、ヴァリターと舌戦を繰り広げていた宰相が、突然ボクに話しかけてきた。
警戒すべきであったにも
すると、その瞬間を狙っていたかのように、宰相が素早く、ボクに質問を投げかけてきた。
「お前が王女に使ったあのスキル、あれは一体なんだ?」
ボクの目をジッと見つめながら問いかける宰相のその瞳に、探るような光が射した。
「この我輩をもってしても揺らぎもしない、あのスキル。……あれは一体何なのだ?」
再び宰相に、念を押すかのように問いかけられた。
この時、ボクは宰相の瞳の色が
——スキル『自白』——
文字通り、対象者に自白を促すスキル。対象者と目と目を合わせた状態で質問することで効果を発揮する。『洗脳』と合わせて使われることが多い。
この『自白』スキルの発動時に瞳が真紅に輝くのだが、宰相の瞳の変化に気づいた時には、ボクは宰相が放った『自白』スキルに見事にかかってしまっていた。
え? 簡単に引っかかりすぎじゃないのかって?
確かにボクは長い間、転生を繰り返しているけど、ずっと地味で平凡な人生を歩んできたから、知識や能力があっても実践経験が圧倒的に足りていないんだ。
だから、人からこんなふうに攻撃されることに慣れてないんだ。心理戦は苦手なんだよ……
結局、何が言いたいのかというと、つまり……
『ボクは、こういった搦め手に弱い』ってことなんだ!
(あわわっ、ど、どうしよう!? とっ、とにかく早く目を逸らさないと!)
「答えるのだ、ガッロル・シューハウザー」
ボクが、視線固定効果のある『自白』から視線を逸らそうと、視線に意識を集中したその瞬間、宰相はそれすらも見越していたのか、またしても、追い打ちをかけるかのように『自白』攻撃を仕掛けてきた。
(まっ、また!? ゔうっ、勝手に喋り出しそうになるっ!? じ、自白させられちゃうっ!? 洗脳されちゃうっ!? どうしようっ、どうしたらいいのっ!?)
すぐに目を閉じて手で口を塞いだが、今にも『
完全にパニック状態になってしまって、頭の中が真っ白になりかけたその時……
「やめていただきたい!」
ヴァリターの叫び声が辺りに響き渡ったかと思うと、ボクは強い力に背中を押されて、ヴァリターの胸に衝突していた。
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、ヴァリターがボクのことを引き寄せたのだと気が付くのにそれほどの時間はかからなかった。
しかしヴァリターは、ボクを引き寄せただけに収まらず、勢いもそのままに、ボクのことを一層強く抱きしめ始めた。
あの、腰を強く抱き寄せる『密着度爆上がりスタイル』で!
力強く腰と背中に回されたヴァリターの腕……
隙間もないほどピッタリと密着しているヴァリターと自分の体。
視界いっぱいに広がるのは、呼吸の度に襟の隙間から見え隠れするヴァリターの鎖骨……
そんな今の状況を理解した途端……
「ッ!? キッ……キャアァァーーッ!!」
……ボクは、あんなに拒否感を示していたはずの、女子力ある悲鳴を上げてしまった。
すんなりと口を突いて出てきた自分の悲鳴に一番驚いたのは、言うまでもなく自分自身だ。
アルに言わされてた時はあんなに恥ずかしかったのに、まさか自発的に言うことになるなんて……
男の子として生きてきた人生観と、今、ヴァリターの胸の中で湧き上がってくるこの感情……
男の子として生きてきた自分の中にいた、女の子の自分。
相反するそれらが、一度に胸に押し寄せてきて……
はっきり言って、何が何やら分からない!
「くっ、俺にも我慢の限界はあるというのにっ……」
パニックで頭が真っ白になっていたボクの頭上から、ヴァリターの呟き声が聞こえてきた。
ヴァリターのその声は何かを抑えているような……かみ殺しているような……何だか、とても辛そうな声音だった。
(はっ!! そ、そうだった! 自分のことで手一杯で、ヴァリターを気遣う余裕が無かった!)
急いでヴァリターを見上げると、ヴァリターはボクから顔を逸らせるように横を向いていた。
なので、その表情は分からなかったが、耳が少し赤くなっているように見えた。
(あっ! ボクが至近距離で騒いだせいで、ヴァリターは鼓膜を痛めてしまったのかもしれない!)
「ゴゴ、ゴ、ゴメン、み、耳元でっう、うるっ、うるさくしてっ」
「そういう意味ではないが……はぁ……」
しどろもどろになりながらも、必死に謝ったというのに、ヴァリターから、どこか諦めたような溜め息をつかれてしまった。
な、何故……?
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