『レファス降臨編』

☆レファス降臨 新たなる騒動の予感①

 もう、ここにとどまる理由もないということで、移動を促されたボクたちは、宇宙ステーションの無機質な通路を、ギラファスに案内されながら横並びに歩いている。


「行動計画はできてるって言ってたけど、これからどうするんだよ?」


 せっかく考えた行動案『とにかく謝る』を、アルとギラファスの二人掛かりで却下されたボクは、モヤモヤとした気持ちを隠そうともせず、少し口を尖らせながらぶっきらぼうな感じにギラファスへ問いかけた。


 ギラファスは、そんなボクの様子を横目でチラリと見ただけで、さして気にした風もなく、今後の『行動計画』を語り始めた。


「まずは館へ戻り、下界の王女を解放する。次に、館の整理をしたら、我輩は霊界のサイノカ街へ行く。そこで——」


 『サイノカ街』の名前を聞いた途端、アルのボルテージが一気に上がるのを感じた。次の瞬間——


「えぇえっ!! サイノカ街ですってぇぇ!? ブッ……ア、アル! 落ち着いてっ! ショッピングに行くわけじゃ無いと思うよっ!」


 ——案の定、ボクの意識を押し除けて、アルが唐突に歓喜の声を上げた。

 このまま、『怒涛のショッピングトーク』に突入しそうな空気を察知したボクは、強引に割り込んでその話を遮った。

 その甲斐あって、無事にアルのショッピングトーク突入を阻止することに成功した。


 ……ふぅ、危なかった。

 王妃の記憶に目覚めても、やっぱりアルはアルだった……


 買い物のセンスはともかく、ショッピングにかける情熱は計り知れない。


「無論、遊びに行くわけでは無い。そこで王妃アルの延命に役立ちそうなアイテムが無いか探す」


「えっ!! そ、そこに行けば何かあるのっ!? ぶっ! ……待って、宰相ギラファス! 私はそんなことしてもらいたくな、ブッ、……っ、何言ってんだよ、アル! ダメだからね!?」


 ギラファスの『アル治療に役立つアイテム探し』の言葉に、前のめりになって質問したボクの言葉を遮り、ギラファスの提案に拒否感を示したアルの言葉を、さらに遮ってボクは治療を嫌がるアルを止めた。


 アルにすれば、敵視しているギラファスの力を借りるような真似はしたくないんだろうけど、それでもボクは、アルに消えて欲しくないんだ!


「……それで、ギラファス。何か、心当たりでもあるの?」


 仕切り直すように一呼吸置いてギラファスに向き直ると、ボクは期待を込めて聞いた。


「今のところは無い。だが、あの商店街は、ありとあらゆる商品が取り揃えられたアイテムの坩堝るつぼと呼ぶに相応しい場所だ。何かしら役立つものを見つけられるのでは、と考えている。逆に、そこで見つけられなければ打つ手は無いと言ってもいい」


 結局のところ、現地に行ってみないと分からないってことか……


 消滅者について詳しそうなギラファスに期待する一方、そのギラファスに打つ手なしの烙印を押されるのではないかという不安が、ボクの胸に押し寄せてくる。


「……ボクには、消滅者治療の知識はない。だけど、できる限りのことはしたいんだ! 何か、ボクに手伝えることはないかな? 何でも言って!?」


 アルの治療なのに、ボクには何もできない。

 そんなもどかしさを感じていたから、何か手伝えることがあればと思って聞いてみたんだけど——


「我輩が自由に活動できるよう、レファス様に掛け合ってもらいたい」

「ゔぐっ!? ……そ、そうだった。あなたは指名手配されているんだっけ……」


 ——ギラファスが要望する『手伝い』の難易度が、かなり高かった!


 『何でも言って!?』なんて言ってしまった手前、無理だなんて言いにくいや……

 いや、考えてみよう! やっぱり事前のシミュレーションは大事だと思うんだ!


 まずは、ボクの『完璧な謝罪スタイル』で謝るでしょ?

 それから、アルがこのままでは消滅しそうなことを報告するでしょ?

 その『治療法模索』のために、専門知識のあるギラファスに協力を得て……って、ダメだ! 使徒たちに、問答無用で拘束されるギラファスの姿しか思い浮かばないよ……


 ああでもない、こうでもないと、悩みながら歩いていたら、ギラファスが不意に、とあるラボの扉の前で歩みを止めた。


「あまり期待はしていないから、そんなに気負わなくていい。説得に失敗したその時は我輩は逃げる。……が研究は続ける。だから心配はいらぬ」


 そう言いながら、ギラファスは認証パネルに手のひらを押し当てた。

 軽快な音と共に開いた自動扉の向こうには、巨大な転移ゲートが設置されている。


「ええっ!! 逃げちゃうの!? だ、ダメだよ、逃げちゃ!」

「何も永遠に逃げ続けるわけではない。近いうちに出頭もしよう。ただし、やり残したことを全て終わらせた後にはなるがな……」


 ボクと会話しながらも、さっと室内に入ったギラファスは、転移ゲートを起動したり、座標の設定をしたりと、忙しなく動き回り、あっという間に転移の準備を整えてしまった。


「さあ、まずは館に帰ることにしよう」

「う、うん……」


 振り返ったギラファスから、ゲートを潜るよう目で合図を送られて、釈然としない気持ちを抱えたまま、ボクは転移ゲートを潜った。

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