降臨 仕事先(下界)で、大変な騒ぎになりました④
——(ほんの少し、時を戻した礼拝堂)——
ボクはこれ以上、皆んなを騙すような振る舞いが出来ず、必殺技の平謝りを繰り出したまま固まってしまっていた。
こ……これから、どうしよう?
謝罪はしたが後が続かない。
今まで目立つことなどせず、無難にやって来たことが仇になってしまった。
圧倒的に経験値が足りない。こんな時の切り抜け方が分からないよ。
国葬に水を差す形になっちゃったから、これで終わり……ってわけにはいかないよね? 『何しに来たんだ!』ってなっちゃうよね?
それじゃあ、正直に話す?
ダメだ! 誓約書の内容に引っかかっちゃうよ。
なら、逃げちゃう?
それもダメだ! Lv.が下がっちゃうよっ!
何か、……何かないかな? 嘘つかないで済む方法は……
床を見つめながら、ここからの離脱方法を考えていた時……
「シューハウザー様!!」
聞き覚えのある声に、体がビクッと反応してしまった。
(まさか!?)
恐る恐る顔を上げると、参列者の間を擦り抜けながら、こちらに駆け寄ってくる一人の騎士と目が合った。
さっきまでの鋭い視線とは違う、今にも泣き出しそうな顔で駆け寄ってくるのは……
「っ!? ヴ、ヴァリター……」
な、何でバレているんだ……!?
今のボクの見た目は、自分で言うのもなんだけど、結構かわいい感じの仕上がりで以前の面影は一切ないはずだ。しかも、性別まで違うのに。
ヴァリターがボク、『シューハウザー』の名を呼んだことで、第三騎士団の皆んなが人を掻き分けるようにして、こちらへやって来ている。
参列者の面々も何かを察したのか、大声を出したり立ち上がったりと、騒めきがどんどん広がっていく。
為す術もなく立ち尽くすボクの前で立ち止まったヴァリターは、荒い呼吸のまま……
「な、何故っ、あの時、一人でっ、い、行ってしまわれたのですかっ」
声を詰まらせながら詰め寄ってきた。
「わっ、悪かった、その件に関しては本当にゴメン、ゴメンなさい。迷惑をかけてしまって……」
どう謝っても足りないほどの迷惑をかけてしまった。
そのことを、自分の葬儀を目の当たりにして初めて知った気がする。
「あ、貴方という人はっ、俺がっ、どれだけっ……」
そこからは言葉にならず、ヴァリターはボロボロと涙を流し出した。
「うぁ!? そ、そんなに泣かないで!? ほっ、ほら! 姿は違うけど、ボクはこうして……」
そこから先の言葉を口にすることは出来なかった。
何故なら、ボクはヴァリターに強く抱きしめられてしまったから……
「ヴァ、ヴァリター!?」
小刻みに震えながらボクに縋り付くヴァリターに、ボクはどんな言葉を掛ければいいのか分からなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へ〜、そんな事になってたんだ」
「しーっ、……アル。声が大きいよ。皆んなアルのこと知らないんだから驚かせちゃうよ」
生前の実家、シューハウザー家の自室のベットで横になりながら、今日の出来事をアルに話して聞かせていた。
あの後の礼拝堂は、想像通りの大騒ぎになった。
国葬から復活祭に様変わりしてしまい、騎士団員たちに揉みくちゃにされた後、前世の両親から窒息しそうなほどの勢いで抱きしめられた。
もちろん大号泣で。
国王様からは、王女救出に対する礼と褒美の話をされたが、もちろん褒美に関しては辞退させていただいた。
あんなに立派な葬儀をしてもらったのに、褒美まで受け取るなんてできないからね。
「で、これからも天界と下界を行き来することになるから迷惑をかけるかも、ってとこまで話せたからよかったよ」
予め報告しておけば、今日みたいに突然現れても、お互い少しは落ちていられるはずだしね。
「ホントね〜。いい感じに丸く収まってよかったわ。あとは、私のこと紹介してくれるとすべて解決ね!」
ウフフ、楽しみ〜、……って、いや、その、……アル?
「えっと、……紹介って……だ……誰に?」
「誰って、皆んなよ。ガーラの知り合い全員によ!」
アルの、当然でしょ!といった感じの物言いに、薄っすらと額に汗が浮かぶ。
「い……いや、別に紹介しなくてもいいんじゃないかな?」
紹介なんかしなくても、今みたいに覚醒してるだけで充分なんじゃ……
「ダメよ! そうじゃないと自由に表に出ていけないじゃない!」
「皆んなの前に……出る……」
皆んなの前……前世の両親、かつての同僚、その前で『キャッ』とか言っちゃう自分……
「そうよ! 今日はもう遅いから明日でいいからね? まずは、下界のお父様とお母様、お兄様たちでしょ? 次はガーラの勤めてた騎士団でしょ〜! あっ、その前に国王様にもご挨拶しなきゃ! そうしたら次はーー」
アルの暴走が始まった!? 一度火がつくと収まらないやつだ!
「ちょちょちょ、ちょっと待った! アル、お願いしますっ、それだけは許して!? これ以上騒ぎを大きくしたくないんだ! 今日のことだけでも国中が大騒ぎなのに、その上、アルの事までなんて……」
王国が騒がしいのは事実だけど、本当は……ボクが、は、恥ずかしいから……
曲がりなりにも騎士団長を勤めてたのに、部下たちの前で女子力全開トークはしたくない。
いくらお飾りだったとしても、ボクにだって元上官としてのプライドがあるんだよ。
「それじゃ結局、今までとあまり変わらないじゃない! 私だってガーラの一部なのに!!」
そう叫んだアルの心が、急に不安定なものに変わった。今にも壊れてしまいそうなほど大きく揺れ動いている。
あっ!? そうだった! フィオナに言われてたんだ! アルの心はとても傷つきやすくて脆いって。
「あうぅっ、わ……分かった……分かったから落ち着こうか? とりあえず明日の朝、父さんと母さんに話すって事で納得してくれないかな?」
仕方ない、アルのためだ。ボクが我慢すればいいだけ……はぁ、また羞恥プレ○確定か……
父さんたち、ビックリするだろうな……息子の口から『キャッ』なんて……
「もうっ、仕方ないわね〜。ガーラがそこまで言うなら私が折れてあげる! でも、絶対、皆んなに紹介してね?」
折れてあげるって……ボクの方が折れてるはずなのに……
でも、おかげでアルも安定したし……まあ、いいかな?
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