【ハル】第11話 あたしの存在
「え……? なんで久世さんが先生のこと知ってるの……?」
「うち仮面浪人してるじゃん? だから今年も家庭教師を雇ってもらったんだけど、それがモネ先生なの。青井のこともよく話してたよ」
ま、マルカちゃん!! なんて素晴らしい子なんだ! まさに棚からぼた餅……いや、特大の紅白饅頭が降ってきた! 多分マルカちゃんと仲良くなれるな。『もー! 早く付き合いなさいよ!』って陰でずっと思ってるキャラになるね、あたしたち。
「世の中って意外と狭いんだね。ルミリ、驚愕」
「ち、ちなみに先生は僕のこと何て言ってた……?」
「うーんと……自分の好きになることはすごく詳しく教えてくれるとか、服が子供っぽくて可愛いとか、部屋がマンガとラノベで溢れかえってるとか……」
「よ、ヨウ君……それって遠回しにオタクだって言われてるんじゃ――」
「ぼ、僕は何も聞かなかった……いいね?」
「先輩……自問自答するくらいダメージを負ったのか……」
とりあえず一同は大学に戻った。この授業はかなり大規模なものらしく、各チームごとに部屋が割り当てられている。先生含めて四人、幽霊一体が使うにはあまりにも広い――特撮チーム専用の部屋だ。大和撫子としては落ち着かない。二畳くらいの茶室がいい。
「で、何で僕が先生のことが好きなの知ってるの……?」
「え!? あんた、モネ先生のこと好きって……うーん……話を聞いてたら青井は先生のこと好きなのかなーって……女の勘です!」
す、すげえええ! 本物の女の勘だー! 初めて見た! ハーレム系の主人公が、他の女の家に行ってたことがバレる時にヒロインが使う言葉ランキング第一位でお馴染み――女の勘だ!
「それで、マルカ姐さんは二人の恋のキューピットになってあげたいってこと?」
「うん、まあそうなるかな。二人ともモヤモヤしてる感じだし」
「いやモヤモヤって言うか……僕が慎重になっていると言うか……」
たしかにヨウ君は慎重、と言うか臆病になってる感じがある。そりゃ、一回フラれたから仕方ないのかもしれないけど……しかし! ずっとビクビクしているウサギみたいな主人公なんて見ていても、こっちがムカムカするだけなのです!
「ヨウ君! ここはマルカちゃんの手を借りよう!」
『パードゥン』
「もうすぐ連休があるでしょ? そこでどこかデートにでも行こう!」
『――ノー』
「はあぁ!? ふざけんな! この軟弱者め!」
「な、軟弱者って……『ノー』」
前回があまり上手にいかなかったから、二の舞を演じたくないって感じなのかな……。どうしよう……万事休すだ……
「青井はデートしたいの? したくないの?」
「え? 出来るならしたけど、でも上手に出来る自信が――」
「じゃあ大丈夫だね! デートの段取りとかはうちらで考えてあげよう!」
「うん、ルミリも恋のキューピット第二号になりたい」
「川谷さんは、どういう服が青井には似合うと思う?」
「うーん……変に攻めるよりもシンプルなファッションにして、好青年だと錯覚させた方がいいと思うな」
「やっぱり清潔感は大事だよねー! あと髪! ボサボサだから切りに行きなさい!」
「あー! ルミリも思ってた! 先輩はどういう髪が似合うかな」
「そうだなぁ……ツーブロックとか?」
「先輩がツーブロック!? めっちゃ面白いじゃん!」
奇数グループ――特に三人で話してると、どうしても話に入っていけない時ってあるよね。帰り道で、自分が歩いてる数歩前に二人が楽しそうに話してる時とか。ああいう時ってあたしは覚えられているのかな? いや完全に忘れてますよね? 一応、三人のグループでしたよね? っていう感情をヨウ君を見ていると、ふと蘇ってきた。女の会話って津波のように――一度盛り上がると止まらないもんね。大丈夫だよヨウ君、その気持ちすごく分かるよ。
「ヨウ君、二人も乗り気みたいだしデートしたら?」
『――パードゥン』
「夏の教員採用試験まで、ちゃんとした連休があるのは今回が最後だよ?」
『…………』
「受かったら付き合ってって約束できるチャンスは、もう最後かもしれないよ……?」
『――イエス』
「よし! それでこそ男……漢だ! ヨウ君!」
「当たって砕けろだ! 絶対に今回こそ成功させてやるぞー!!」
「お! 青井もやる気じゃん! ルミルミ、やっぱりセンターパートも良さげだと思うんだけど、どう思う?」
「たしかにそれもあり! さすがマルマル!」
え? ルミルミ? マルマル? いつの間にか二人めっちゃ仲良くなってるじゃん。別に前から仲良いとか話してた訳ではないけど、謎の疎外感を感じる。あたしもハルハルって呼んでくれたりしないかな。
「髪の話も大事だけど、決めなきゃなのは行く場所です! 先輩、先生はどっか行きたいとか言ってなかった?」
「うーん……そういう話はしなかったなぁ……久世さんは何か聞いたことない?」
「そうだなぁ……雨の降る
「えぇほんと? お酒とチョコレートしか食べてないんじゃない? 靴でもプレゼントする? ルミリもお金出すよ」
「プレゼント大事だけど、まずは
「いいと思う! あそこは屋台とかもあるし、二人でゆったりするのに向いてる!」
「え? ゴールデンウィークにするの?」
「うん、連休ならお互い予定も作りやすいかなって」
「土砂降りでも、ずぶ濡れでも構わないならいいけど……多分雨降ってるよ」
か、神がヨウ君を拒絶してる……! ふざけていつもアーメン! 南無南無! とか言ってるからだよ! 仕方ない……ここは幽霊代表としてあたしが人柱になるしか……愛にできることはまだあるって証明してやる!
「まぁでもいいんじゃない? モネ先生は雨の降ってる新海御苑が好きなんでしょ? そこでデート出来たらエモいじゃん」
「あー、たしかにそれはエモいね」
「うんエモい、ルミリもそう思う」
あたしが断腸の思いで決意したのに『エモい』の一言で片付いてしまった。え? あたしの存在なんて、なんでもないやってことですか? もう
「じゃあ今から電話でデート誘ってくる!」
「よし! 頑張れ少年!」
「大丈夫? 一人でやれる? ルミリ、心配……」
「うん! 人があんまりいないところに行ってくるね」
ヨウ君が久々にこっちを向いた。一瞬だったけど。正直、忘れられていると思ってた。二人と話しながらこっちとも意思疎通を図るなんて不可能だけど、無視と言うか――相手にされていない気がしたから。でも、ちゃんとヨウ君が覚えてくれた。あたしという存在を覚えていてくれた。もう少し恋愛マイスター、続けようかな。
「なにヨウ君ー!? デートの誘いも一人で出来ないのかい! 本当に君にはおちんち――」
「うるさいなぁ! デートのお誘いなんてしたことないんだもん!」
「仕方ないなぁ……! この恋愛マイスターに任せなさい!」
特撮チームの部屋から少し離れたベンチまで来た。人は全くいない。頭上の散ってしまった桜の木と、同じような寂しさが辺りを覆っていた。人と一緒になりたいのに、ちょっと縁起が悪いなとも思いながら、ヨウ君はスマホを取り出した。ゆっくりと。侍が腰の刀を抜くように。
「ヨウ君、電話でテンパる気持ちは分かるけど、大事なのは要点をしっかりとまとめることだ」
「ほうほう……」
「出来立てほやほやのカップルでもない限り、会話はあまり続けないのが安牌だ」
「なんで? いっぱいお話出来るなら、した方がいいんじゃないの?」
「出来るならね。でも大抵好きな人と話していると緊張して、一分も話してたら頭が真っ白になって、何も話せなくなる。そこから微妙な気まずい時間が流れて、デートが始まる前から悪印象……とまではいかないけど、ちょっと自信なくすでしょ?」
「た、たしかに……絶対に一分も話せる自信ない……」
「だから端的に! ハキハキと! 自信を持ってやるの! ファイトー!」
ヨウ君が着信ボタンを押す。顔が全体的に引きつってる――というよりも緊張を押し殺すために、顔へ圧力をかけているような感じだ。こういう時こそ恋愛マイスターの出番ではないか! あの二人よりも、あたしはこういう場面に強い!
「あ……あぁん……い、いっちゃうぅ……」
「変な声出すな! 緊張してるんだから!!」
「あぁ……そ、そこぉ……ヨウくぅん……きもちいぃ……」
「本当に勘弁して! いつ出てくるか……あ、も、もしもし! あ、青井です!」
「…………」
「あの、実はちょっと相談があって……」
「…………」
「よ、良かったら、来週のゴールデンウィークに、雨の降る新海御苑! 一緒に行きませんか!」
「……………………」
「え! ほんとですか!」
「……………………」
「やった! 楽しみにしてます!」
「…………」
「はい! 失礼します!」
「その感じだと、成功したっぽい?」
「ふふふ! 大成功でございます!」
「よくやったヨウ君! それじゃあデートに向けて作戦会議だ!」
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