転生しても日本だった件(しかし妖怪がうようよいる世界だとする)

@KENTO0725

プロローグ

 視界が、どろりと赤い。

 腹部を貫いた数本の槍が、冷たい風を体内に送り込んでいた。

 周囲を取り囲むのは、かつて共に戦い、今や恐怖に顔を歪ませた兵たち。そして、その背後で勝ち誇ったように呪文を唱える、かつての同門たちだ。

「……ははっ、これが『最強』と謳われた男の最期か」

 口から溢れる鮮血を拭う気力も残っていない。だが、俺は不敵に唇を吊り上げた。

 俺の足元、流れた血が描いているのは、これまで誰も成し遂げたことのない禁忌の陣――『転生の秘術』だ。

「さらばだ世界。次の生では、もっと器用に生きてやるとしよう」

 瞬間、世界が爆ぜた。

 絶叫も、怒号も、崩れゆく城の轟音も。すべてが唐突な静寂に飲み込まれる。

 ――次に目を開けたとき、そこは「無」だった。

 上下も左右も判然としない、ただ純白が支配する空間。

 その中心に、一人の少年が座っていた。足元には、本来そこにあるはずのない水面のような波紋が広がっている。

「いやあ、見事な術だったね。まさか人間が自力で、魂の情報を書き換えてここまで来ちゃうなんて」

 少年はパチパチと拍手しながら、軽やかに立ち上がった。その瞳には、星々が明滅するような人知を超えた輝きが宿っている。

「……貴様が、いわゆる『神』か」

「そう呼ばれることが多いかな。僕は君たちの魂の循環を管理しているんだけど……君の魂、もうボロボロだよ? 強すぎる力を使いすぎて、元の輪廻の輪には入りきらなくなっちゃった」

 神と名乗る少年は、退屈そうに空を指差した。そこには、俺がいた世界とは別の、禍々しい「黒い太陽」のようなものが浮かぶ異世界が映し出されていた。

「だからさ。ここは一つ、提案をしようじゃないか。君のその溢れんばかりの呪力と、魂の強靭さ。普通の死後の世界で眠らせるには惜しすぎるんだ。……どうだい? 妖が昼間から闊歩し、人間が『餌』として扱われている、もっと刺激的な世界へ行ってみないか?」

「妖の、楽園か」

「そう。そこなら君を縛る法も、君を恐れて背中を刺す臆病な王もいない。ただ純粋な『力』と『術』がすべてを決める場所だよ」

 俺は少しだけ考え、そして笑った。どうせ終わったはずの命だ。化け物相手に術を振るい、望むままに生きるのも悪くない。

「……面白い。その誘い、乗ってやろう」

「決定だね! お祝いに、君の新しい身体には『万物の穢れを視る眼』をあげよう。それがあれば、隠れている大物もすぐに見つけられるさ」

 神がパチンと指を鳴らす。

 途端、純白の空間が割れ、俺の魂は猛烈な重力に引かれて落下し始めた。

「次はもう少し、長生きしてね。最強の陰陽師さん――」

 遠ざかる神の声を最後に、俺の意識は再び熱い熱い「生命」の感触へと溶けていった。

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