第14話 チーム④
少年は巨大な犬の姿となり口から邪気を吐いて襲ってきた。。
「金生小符・鉤形防璧」
くの字型の壁が邪気を左右に分けて攻撃を防ぐ。
「火生中符・連炎散歌」
炎が発生し渦を巻き邪霊を包み込み中規模な爆発を起こしそれで邪霊は祓う護符だ。なんとも乱暴な護符だと思った。
「この程度の霊ではお互いの実力を測る事は出来ません。もう少し難易度の高い依頼を要求しましょう」
「それには同感だわ。もう一度堤宮の斡旋所に行きましょう」
お互いに火花を散らしながら互いの意見に同意する二人の姿はみていて恐ろしいものだ。
そう思っていると子どもの泣き声が聞えてくる。
二人はそれで視線を切りかえる。
「どうやら今の一撃で仕留められなかたようね。中符じゃなくて大符のほうが良かったんじゃないですか?」
「敵は小物。力を無力化できれば問題ありませんわ」
そんな口論を散らす二人だったが邪霊は恐るべきことを口にする。
「助けてお兄ちゃん。悪い人たちをこらしてめて」
少年邪霊の言葉で凄まじい威圧感が周囲を囲む。
「「「!!!!」」」
俺達は最大限の警戒を敷く。
「火生中符・大火防壁」
三メートル四方の炎が広がり敵の攻撃を防ぐ護符。
「水生中符・天昇滝壁」
滝が逆流し防壁となる護符。
この二つの護符でとっさに防御の陣形を取る。
しかしその二つの護符はあっさりと破られ、二人に攻撃が直撃する。
「危ない!!」
その直前俺が飛び込み壁となって邪霊の攻撃を受けて地面に転がる。
「鐘羽さん!」
「無茶な事を」
俺の事を心配しつつも二人は新たに現れた邪霊から視線を外せない。それは正解だ。新たに現れた邪霊は邪霊であって邪霊にあらず。
「弟分よ、お前の声は聞えている。今から俺がこいつらを粛清しよう」
透き通るような青い肌をした人間。髪は白くウェーブがかかっており額に何かが突き出ていた。それが角であることはすぐに認識できた。
「お、鬼。どうして、鬼が、ここに」
俺のその言葉に前方にいる二人も同じ感想だっただろう。
「丁度良いですわ」
「そうね」
「お互いの実力を知るために」
「この鬼を退治します」
そう思っていたのに彼女たちは臨戦体勢になった。
「逃、げろ」
ダメージで言葉が上手く発っせない。その状況でも彼女たちに言えるのはその一言だった。長い時間をかけて練りこんだ護符の鎧を一撃で寸断する攻撃力は並みの陰陽師では歯が立たない。それこそ甲乙級が必要だ。
しかし鬼の一撃を受けていない彼女たちはそれが分からず攻撃を仕掛ける。
「火生大符・爆炎昇華」
炎が渦巻き周囲を包み込む。外から見ればそれは炎の華のように見えるが中にいるものは猛火に焼かれる。
その炎を鬼はその咆哮でかき消す。
「そんな!」
「次は私の番よ。水生大符・竜牙飛翔!」
水竜が出現し口を開けると牙状になった水が放出されその水圧で対象を切り刻む護符。水飛沫が上がり小雨が降る中で鬼の咆哮は再び護符の威力をかき消す。
「大符が通用しないなんて!」
「咆哮で護符の力を打ち消すなんてそんな力は鬼にはないはず」
「別の護符で」
「止めなさい!実力差がありすぎるわ!あなたも分かるでしょう?!」
止める火口さんに水成さんは食って掛かる。
「実力差があっても邪霊は祓う。それが陰陽師のプライドよ」
彼女は戦い続けるだろう。自分の家を再興させるために、自分の力を認めてもらうために。それは俺が自分の努力を笑うなといっていしまったからかもしれない。あの時心が折れたままなら彼女はこんな危険なことに挑もうとしなかったかもしれない。そんな悔悟の念が思い浮かぶ。
「あなたがそこまで言うなら私も引けないわ。では次は同時に攻撃しましょう」
「分かったわ」
そうして二人は襲いかかる鬼の攻撃を回避しながら反撃の機会を伺う。ダメージが回復してきた俺は何とか立ち上がる。そしてもっとも得意とする護符を出す。
「金生中符・連星双壁」
二つに並んだ金属の板が敵の行動を制限する。金属の板は火口さんと水成さんの姿を隠す。
「隠れているだけじゃ俺は倒せないぜ」
鬼はそう言って一瞬にして二枚の金属の板を砕く。
だがそこには二人の姿は無かった。
「どこに!?」
鬼の死界から二人は同時に護符を放つ。
「火生大符・爆炎昇華」
「水生大符・竜牙飛翔!」
二つの大符が鬼に命中する。
「ぐふうっ!」
直撃を受けて鬼は大きく後方へ弾かれる。
「やったわ」
「仕留めた」
喜ぶ二人に。
「なんてね、結構痛かったぜ」
いつの間にか背後に回っていた鬼から一撃をくらい地面に倒れる。
「そんな、私の護符が、通用しない、なんて」
驚愕する火口さん。
「また、通用、しなかった」
一方の水成さんはそう呟いて気を失い、火口さんがそんな彼女を守るように近寄る。
「じゃあな」
鬼を手を振り上げる。
このままでは彼女たちは殺されてしまう。
(頼む、彼女たちを助けてくれ、刃迅(ばじん))
そう念じると次の瞬間、鬼は弾けとび地面に転がる。
そこには一匹の猫がいた。
毛並みは逆立ち靄がかかったように揺れている。まるでそこにいないような雰囲気を醸し出す。それがただの猫ではないことを物語っている。尻尾は二本、いわゆる猫又と呼ばれる妖怪だ。
『久しぶりだね』
頭に響く声は久しぶりに聞く友人の声だった。
『ゆっくり話を聞きたいがまずはこれを何とかしないとね』
猫又、刃迅(ばじん)の妖気が膨らんでいく。
対して鬼は手をかざす。すると冷気が放出され空気中に氷が発生する。
妖気と氷は衝突し相殺される。
『鬼、かつて人だったものか。しかもこの匂いは氷室の一族か。同族に裏切られ鬼となったか』
「黙れ!猫の化け物風情が!」
『その通り。私はかつてはただの猫。しかしお前よりは長く生きているよ』
鬼は自分の足元に妖気が充満し動きが封じられていることに気付く。
「なんだこれは!?」
『お前たち一族に恨みを持つものたちの怨念だ。みずからの行いがお前を束縛する』
「くそ、何が怨念だ!俺達を利用するだけ利用したのはお前たちの方じゃないか!最初に頼ってきたから助けてやったのに、恩知らず共め!!」
『その憎悪がお前を鬼にしたわけか。だが人道から外れたものは鬼になるのは必定。欺瞞を捨てて己を見つめなおすが良い』
怨念は鬼を包み込みしばらく抵抗した後に鬼はそのまま倒れてしまう。怨念は霧散し鬼から妖気が逃げるように放出される。
「まだ、終われぬ」
膨大な妖気が放出され周囲のものは警戒する。
しかし何事も無く妖気が消え去っていった。
『逃げたか。それにしても鬼が関わるような案件に手を出すやつではないと思っていたのだが、その娘たちが原因か。また落ち着いたら話をきかせておくれ。今日のところは去るよ』
そうして刃迅(ばじん)は姿を消していった。
動けない俺はそのほどなくしてやってきた堤宮姉弟によって助けられ各々の家に運ばれた。
※
颯兵さんたちを見送り、私は誰もいなくなった店内を見渡す。私、堤宮梨乃(つつみやりの)は先ほどの光景を思い返す。颯兵さんの左右にいたのは宗家の女子。
その光景が私の心を乱していた。深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「姉ちゃん、ちょっと良い」
気持ちが落ち着いた私の背後から弟が話しかけてくる。
「何?」
「さっきすすめた案件だけど、注意事項があるよ」
「え?」
そう言って私はパソコンを見る。
依頼には様々な注意事項がある。本来そこに目を通して依頼を紹介するのだが唐突の来客で心を乱してしまい確認を怠ってしまった。そしてそのことを後悔する。
『注・近隣に強力な邪霊あり。乙級に変転の可能性あり』
「!!!」
依頼は難易度に応じて等級が振り分けられる。ただしその等級も確実なものではない。たとえば近くに乙級の邪霊がいれば戦闘に反応して陰陽師に襲ってくるかもしれない。そのため注意事項に難易度が変転する恐れがあるとかかれる場合がある。
「援護に向かうわ!あなたも準備して!」
弟を連れて私は颯兵さんたちの元へと向かった。
陰陽相見える @Electra17
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