第13話 チーム③
俺は水成さんと火口さんと共に宗家の一つ堤宮の斡旋所に向かった。
その理由は陰陽師の仕事を斡旋してもらうためだ。
斡旋所へと向かう途中で陰陽師の等級の話になった。
陰陽師の等級は10段階に分けられる。
甲級(こう),乙級(おつ)は宗家。精鋭。
丙級(へい),丁級(てい)は上位陰陽師。エリート。
戊級(ぼ),己級(き)は一般陰陽師。中級者。
庚級(こう),辛級(しん)は陰陽師学校卒業者。初心者。
壬級(じん),癸級(き)は見習い。修行中。
陰陽師学校を卒業すると庚級(こう)または辛級(しん)となり、経験を経て戊級(ぼ),己級(き)となる。それと共に仕事の依頼にも同様の等級が振り分けられ、同じ等級以下の仕事しか受けれない規則となっている。
例外としてチーム内に上位の等級者がいれば自身の等級よりも高い仕事を斡旋してもらえるがそれは斡旋する人の判断に寄るので一概には言えない。
宗家である火口と水成はともに甲級(こう)かと思っていたが
「まだ修行中ですから丙級(へい)ですわ」
「私もです」
二人の口から甲級(こう)などと出なかったのは幸いだがそれでも丙級(へい)だ。
「鐘羽さんの等級は何ですか?」
そういって聞いてくる水成さんの視線には期待の色は無かった。それゆえに俺は正直に答えることにした。
「辛級(しん)だよ」
「「辛級(しん)!!」」
そこで俺の二人を見る目が変わった。見下していると言うか、見下ろしていると言うか、まあそう言う事だ。
mッ気のある人ならそんな視線に喜ぶのかもしれないが俺はノーマルだ。そうであるがゆえに彼女たちの視線が痛かった。
「あなたは15年以上は陰陽師の活動を続けていると聞きました。それくらいの年数を経るなら戊級(ぼ)もしくは己級(き)までに昇っているものではなくて?」
「昇級試験を受けたが落ち続けた、それだけの事だ」
そう言うと二人は少し怪訝の表情したが火口さんが口を開く。
「まあ、元々お互いを知るためにチームを組んだわけですし」
「そうですね、ひとまず仕事をこなしましょう」
そうしてにらみ合う二人。
意識が俺の等級の低さからライバルへの対抗心に移ったようだ。
そんな中で俺が思う事はひとつだ。
(もうこのチームから抜けたい)
そんな情けない事を思うしか出来なかった。
※
宗家の一つ堤宮(つつみや)は宗家の中でも異質な役割を担っている。それは他の宗家のパワーバランスを調整するという役目だ。
具体的には陰陽師の仕事の依頼を斡旋している。依頼はすべて堤宮に集められ難易度ごとに分類される。そしてどの依頼をどの家に任せるかを判断する。難易度の高い依頼をこなせばその宗家の評価があがり権力が強くなってくる。各宗家のパワーバランスを考えて依頼する相手を選ぶのだが、水成は没落し、鐘羽は陰陽師の仕事から手を引いている。火口と木瀬のみが依頼を奪い合い、実力でやや勝る火口がリードしていると言う状況だ。
そう言った状況で火口の跡取りである火口紅葉が水成桃葉と鐘羽颯兵と共に堤宮の斡旋所にきたことに私は驚いていた。
「こんにちは颯兵さん。今日は両手に花ですね」
「お世話になっています、梨乃さん」
私は堤宮梨乃(つつみやりの)。29歳独身、絶賛彼氏募集中だ。
好きなタイプは身長が高くごく平均的な顔立ちの、と話しが脱線したので戻そう。
「もしかして仕事を探しに来たんですか?」
「ここに陰陽師がくるのだから当たり前でしょう、何を呆けたことを言っているのかしら」
相変わらず口調のキツイ火口紅葉さん。
「そりゃ宗家の三人の若者が集まっているんですからどんな仕事がお望みなのか想像もつきません。だから呆けたりもしますよ」
そう言って切り返す。
「それもそうね。じゃあ単刀直入に聞くわ。私達チームを組みたいと思っているんだけど、お互いの実力を知るために最適な仕事を紹介してちょうだい」
その言葉に驚く。宗家の人たちは基本的に商売敵だ。だからチームを組む事はない。だが宗家のしかも次代を担うであろう人物たちがチームを組むとなると堤宮としては見逃せない。
だからと言って仕事を斡旋しないわけではない。
「少し待って下さい」
堤宮はパワーバランスを考慮する。しかしそれよりも依頼を一つでも消化させて仕事を減らしたい、それが一番の本音だ。
だから三人には簡単すぎて誰も受けない依頼を紹介することにした。
パソコンを叩きいくつか候補となる依頼を表示させ印刷する。それを机の上に広げる。
「依頼は三つね。すべて庚辛級(こうしん)だけどね。簡単な依頼なので全部受けてくれても構いませんよ」」
「・・・」
そう言う火口さんに水成さんも何も言わなかった。
颯兵さんは何とか精神を維持したようだ。気を取り直して依頼を見ている。その表情が真剣すぎてつい彼の表情を観察するのに私も真剣になってしまう。全部と言ったが慎重な鐘羽さんなら依頼は一つに絞るだろうが他の二人がどう判断するか分からない。
(ポストの邪霊の退治。池の邪霊の退治。豪邸に潜む邪霊の探索及び退治どれを選ぶのかしら)
それから口論する火口と水成では結論が出ないので鐘羽さんに最終決断を任された。
彼は戸惑いつつも一つの依頼を選択した。
私としては全部引き受けて欲しかったのだが彼の困惑した表情も見れたので良しとすることにした。
※
私たちは依頼を受け早速仕事に取り掛かった。
『古い郵便ポストの邪霊を祓え』
それは古くからある郵便ポストで戦前に多くの人が活用していたと言う。遠くに暮らす人へ手紙が届くように願いを込められた手紙を投函されつづけたが、終戦、電話の普及、そして携帯電話にLINEの登場でそのポストはほとんど使われなくなった。
通常ならばそう言うものは撤去されるはずが長い間放置されていた。そこに邪な霊が住み着きいているとのこと。
「その邪霊を祓えば良いのですね。どちらが祓うか競争ね」
火口さんは自信満々に言ってきた。
「そうね、私が足手まといかどうかよく見ててくださいね」
火花を散らせる。
そしてその場所についた瞬間、私を含め三人が場の空気の変化に気付く。邪霊がいる特有の空気感、その緊張感の中で古びたポストが視界に入ってきた。
これまで見えていた道や左右に並ぶ建物が意識の外に向かいポストだけが目に付く。そしてそのポストの隣に佇む少女がいた。
「---さ-、----ん」
何かをつぶやく少女。それが歪な形となって膨らんでいき異形の邪霊と化して私達を襲う。
私は一歩前に出て護符を取り出し発動させる。
「水生中符・粒散水玉」
粒状になった複数の水の球体が、浮遊し邪霊がふれると破裂して水圧で攻撃する護符だ。敵の行動を制限する護符だが低級の邪霊なのだろう本能のままに動き次々と水玉を破壊して自分を傷つけていく。
ほどなくして邪霊は力を失い小さくなっていた。
庚(こう)級の仕事だ、低級な邪霊なのでこんなものだろう。こんな仕事ではお互いの力量を知ることなど出来ない。
そう思った瞬間、背筋に悪寒が走る。
「あーあ、可哀想に、小さな女の子をいじめて嬉しいのかい?」
少年が立っていた。12歳前後か、男子小学生のような無邪気な笑みと悪戯っ子のようなを目をしていた。
「先生に言いつけてやるぞ」
「金生大符・連金重壁」
幾重にも重なった金属の壁がその攻撃を防ぎ砕かれる。
(金の陰陽師の防御をいとも簡単に砕くなんて!)
少年が邪霊であることは確認するまでもない。そして私達三人は強敵へと視線を向けた。
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