第11話
水曜日。
健斗と京介は都市内にある、オラシオン第二研究所に来ていた。
「で、どうしてこんな恰好を?」
健斗は自分の服装をまじまじと見つめる。
「ん? 違和感無いだろ?」
そう言う京介は白衣を着ていた。勿論、健斗も同じ服装をしている。
「――お前はな」
少し唖然とした様な顔で健斗は京介を見つめる。
なんでこんなにも、こいつは様になるんだろう。健斗は不思議だった。
「本題だが、今から俺たちは研究員として、この研究所で研修を行う」
「研究員?」
健斗はわざとらしく不思議そうに首を傾げる。
まあ、この服装からして薄々想像はついたけど。
にしても、どうして僕らは研修しに来たのだろうか。
ここまで来て今更だが、健斗は事の経緯を理解していなかった。
「ああ、そうだよ。この研究所はオラシオンの中でも、ゼピュロスの開発を頻繁に行っている場所だ。ゼピュロス・システムがあるとすれば、ここも関係しているはず」
そう言う京介は、どこか確信がある様な顔をしている。
自分の知らない秘匿技術を持っている研究所。
それ以外の研究所の秘匿技術は魔法騎士の頃に知っていた。
あの頃より技術が大きく変わっていなかったら、ここが疑い深い。
「なるほど・・・・・・。――で、これと?」
健斗は視線を白衣に移し、京介に言う。
そのゼピュロス・システムを調査するため、
僕らはこの研究所に来たと言うことか。
「そう言うことだ。よし、行くぞ」
京介は一度目を瞑り、真剣な顔で研究所へ向かって歩いていく。
「おう」
張り切る様に京介の後をついて行った。
―――
第二研究所会議室。
研究所に入った健斗たちは、入り口にいた受付の女性に案内されここにいた。
「どうも、研修生の柴鳥京之助でーす」
京介こと柴鳥京之助は、ふざけた様な陽気な口調で会議室にいた担当者たちに挨拶していく。
偽名だ。語呂は似ているが微妙に違う。
と言うか――僕も、か。健斗はふと気がついた様に顔を上げた。
「同じく、研修生の志波健蔵です。よろしくお願いします」
健斗こと志波健蔵も挨拶していく。
咄嗟に思い付いた名前だが大丈夫だろうか。
健斗は不安になり、京介の顔色を伺う。
どうしてか、京介は隣で吹き出しそうな顔をしていた。
「柴鳥くん、志波くん、初めまして。私がここ、オラシオン第二研究所の所長を務める明智だ。よろしく頼む」
会議室の中心にいた長身で、白髪の貫禄のある男性。
男性は落ち着いた口調で健斗たちに言う。
この場にいるのは、所長である明智を含めて十人ほど。
おそらく、この十人がこの研究所の上層部であろう。
健斗は視線を流す様に彼らの顔つきを見ていった。
「「よろしくお願いします」」
健斗たちは二人揃って頭を下げる。
「では、研究所を案内する――――越前くん」
明智はそう言って立ち上がると、会議室の入り口側にいた若い男性の方を向く。
「――かしこまりました。では、お二人ともこちらへ」
長身で耳元までかかる黒い髪に眼鏡をかけた男性。
越前はそう言って会議室の扉を開け、右手で健斗たちを案内する。
「では、失礼します」
京介はそう言って部屋を出て行く。
追う様に健斗も頭を下げ出て行った。
研究所内通路。
「そのー、柴鳥?」
越前の後をついて行く健斗は、隣にいる京介に声を掛けた。
「ん? なんだい志波くん?」
何食わぬ顔で京介は言う。
「んー、どうして?」
どうして、偽名を使うのだろうか――。健斗は不思議だった。
「そりゃ、俺たちの名前で調べられたら――素性はバレるかもしれないからな」
京介はめんどくさそうな顔で呟いた。
確かに、ここなら魔法騎士としての僕らの情報を持っているかもしれない。
「なるほど・・・・・・。それで僕らはどうなるの?」
悪く言えば、ここは敵の本陣。僕らはその中心にいる。
「簡潔に言えば、研修――と言うより、見学に近い」
「見学?」
とは――。研修の予定じゃなかったのだろうか。
「ああ。まあ、この研究所を見て、今後に生かそう。そんな感じだよ」
「なるほど・・・・・・」
「果たして、見学の範囲はどこまでか」
京介は見通した様な顔でそう言った。
「――続いてはこの部屋になる」
急に前方を歩いていた越前が部屋の前で立ち止まる。
両開きの大きな扉。
その部屋の名は『試運転室』だった。
「越前さん、この部屋は?」
京介は部屋名をまじまじと見てそう言った。
「ああ。この部屋はその名の通り、研究所で製作した魔導機械の試運転をする部屋だよ」
「魔導機械の試運転ですか」
「今だと、試運転しているのは――――ゼピュロスだな」
越前は淡々と告げる。一瞬、京介の顔が強張ったのを健斗は見逃さなかった。
「ゼピュロス――ですか?」
不思議そうに京介がそう言ったのと同時、越前が扉を開けた。
開くと、その内部は学校の体育館の様な広さだった。
「ゼピュロスとは、人型の魔導機械だよ」
中心にある台座へ到着すると、越前はそう言って台座に乗っていた物へ視線を移した。
健斗と京介は、驚愕した様な顔でその物を見つめる。
それは、翼の生えた人型の機械。
銀色の容姿。大きさは僕らより一回り大きい。
これが人型魔導機械・ゼピュロス。健斗はまじまじと見つめていた。
「戦闘用なんですか?」
見上げる様にゼピュロスを見て、京介は解せない顔で言う。
「ああ。戦闘用――ではある。まあ、試験段階で実戦運用はまだまだ先だがな」
そう言う越前はゼピュロスを見上げ、誇らしげな顔をしていた。
実戦運用はまだ――。と言うことは、未完成。京介は考える。
「やっぱり、実戦は課題が多いんですか?」
京介は純粋な笑顔を向けて越前に聞いた。
「ああ。まず、戦闘に当たっての自動制御システムが大きな課題だ。如何にして、敵と味方の区別や一般人の区別を付けるか。それと――」
越前は深刻な顔で問題点を告げていった。
人故の利点、機械故の利点、無論どちらも欠点が存在する。
越前の説明は何も知らぬ健斗でも十分理解出来るものだった。
越前の話す姿を見て、健斗は彼のゼピュロスに対する熱意を感じ取る。
「それと――?」
京介はその先の言葉を待つ様に息を飲む。
「――ゼピュロスの動力源をどうするか」
越前は大きくため息をつき、そう言った。
「動力源?」
眉間にしわを寄せ、京介は解せない顔で聞き返す。
それがアガリアの言ったゼピュロス・システム――か。
京介は内心理解していた。
「ああ。所詮、ゼピュロスも機械だ。機械と言うことは、自然と動力源、エネルギーが必要となってくる」
どんな機械も動かす動力源が必要だ。
勿論、人間も衣食住と言った様々な生きる動力源が必要となる。
その観点だけならば、人も機械も変わらないのだ。
「なるほど。活動するための動力――と言うことですか」
京介は納得している様な顔で頷く。
本当はすべてわかっているはずなのに。
健斗はその京介の演技に驚いていた。
「それが――本当に難しい」
そう言って越前はゼピュロスに背を向ける。
「それは難題ですね」
困った様にそう言って、京介は部屋を出て行く越前の後ろについて行った。
「だからこそ、私は――」
出て行く手前。越前は振り向き、ゼピュロスを見つめてそう呟いた。
何かを決心した様なその表情。
京介は無言で見つめていた。
その後、製作設計室や製造室なども見学し、当日の研修は終わった――。
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