気ままビリヤードメルヘン小説 ”on the table”

 タケシはどうしても明日のオークランド月例会ビギナーC級で優勝したかった。連続3回準優勝を経験すればそれも当然だろう。タケシはなかなかもう1ランク上のレベルに行けない自分にいらだっていた。なぜ勝てないんだ?技術は負けていないはずだ。やはり精神的な弱さなのか?しかし初めて他人と試合をしたときのような極度な緊張はもうしない。⑨ボールを入れられポイントリードされてものんびりしていられるほどの度胸もついた。ショットを打つ時も必ずポケットに入れる、と確信した上で打つのだ。どこに欠点があるというのだ。


 ”ちっ、またはずれたか”タケシの集中力はもう限界だ。3時過ぎ窓の外はゆっくりと確実に夜の幕を上げようとしている。ブーン、新聞配達のバイクの音が聞こえた、のはおぼえている、しかしその後は?おもいだせない。タケシはねむってしまったのだ。テーブルの上で…


 タケシが気づくとそこは撞球室ではなかった。緑色の地面がどこまでも続いている。広い草原のようだ。いったいここはどこだ?タケシが思ったとき、その声は聞こえた。

”よく来たな、タケシ”

おどろいたタケシがふりかえるとそこには白髪の老人と先頭に15人ほどの団体がいた。その団体は赤い服を着た女の子や裸の黒人、茶色がかったミケネコなどよくわからない組合わせだ。一体こいつらは何者だ?そのことを聞こうと思ったとき老人が話し初めた。


 いいか、タケシ、ビリヤードでは常に自分が孤独なものだと思え。たしかに相手はいる。しかしその相手がいったいおまえに何をするのだというのだ。たしかに相手がセーフティなどで球の配置を変えるかもしれん。しかしそれは前提条件にすぎん。そこからは自分一人なのだ。そしてそのことは次のことにもあてはまる。おまえはさっき、球がはずれたとぼやいたな?しかし本当に球がはずれたのか?よく考えてみろ、おまえは孤独なのだ、だから、おまえが球を、はずしたのだろう。ミスを自分以外の者のせいにしてはいかん。もう一度言おうおまえは孤独なのだ。わしらはおまえにいいように操つられているだけだ。おまえは何度か対戦で負けた。それも同じこと。敗北を相手、実力のせいにするな、敗けたのではなく勝たなかった、又は勝てなかっただけだ、責任は常におまえの両肩にのっているのだ。そのことを忘れるのではないぞタケシよ…、


 ジリリリリリリ…目覚し時計のベルがなりタケシは目をさました。テーブルの上でねむっていたのか、それにしてもさっきのは夢だったのか、ということはさっきの夢の場面はやはり…


 その夜、タケシはオークランド月例会で優勝した。最後、むずかしい角度のショットをきれいにきめた時観客は入った!と観声をあげたがその中でタケシは1人思っていた。

”⑨ポールが入ったんじゃない、俺が入れたんだ”と。


おわり

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