第2話 十二月三十一日、昨日のこと。

 八畳一間の部屋。

 東に取り付けられた引違い窓は受け入れる。

 朝日は部屋の四方へグラデーションを作る。


 光の届いていない天井の隅を見つめながら、昨日のことを思い出していた。

 昨日。うん、もう去年。

 大晦日。

 ワーワー。


 仕事は休みを取った。

 会場へは家から自転車で三十分ほど。

 点在するアパート、一軒家を通り越しながら、反対側に見える山間はもう暗い。

 ちらほらと車がすれ違う。

 目的地に近づくにつれ、方々から集まったどーぶつ達で混みあって来た。

 

 役所前の広場【どーぶつのオアシス】


 そこへ続く舗装された道に屋台があふれる。

 ワーワーへの参列者達はすでに祭りを楽しんでいる。

 その年のフィナーレを飾るイベントは、例年通り賑やかであった。


 自転車を押しながら、皆と目指す方向は同じのよう。

「今年はやってくれるか?」

「いや、どうだろう」

 そんな声が、至る所から賑々しい声に混じり聞こえてくる。


 自分の胸にも聞いてみる。

「もしかしたら、やってくれるかも」

「でも、成功したやつはいないし……」

 何度か繰り返した、今年はどうだろう。


 しかし、今回はワケが違う。

 出場者が友人の【やぎ氏】なのだ。


 やぎ氏。


 十代の頃から、二十年来の友人だ。

 同じ学校に通い、ウマが合った。

 多くを語り合い、議論し、親交を培った。


 学校を卒業して別々の仕事に就いても、時折会っては食事をした。

 少年時代から大人になっても、時間を飛び越えて弾む会話。

 いつもあるテーマで会話が盛り上がる。


(もしワーワーに選ばれたらどうする?)


 この世界のどーぶつ達なら必ずしているであろう話。

 御多分に洩れなかった。

 解凍の無い問いを彷徨う。


「出るならさ、うし氏、お前と出たいよな」


 結局のところ、お互いいつもそれが答えであった。

 運命ならば、然るべき相手と。

 それならば、受け入れられるような気がしていた。


 昨年一月の中頃、やぎ氏から連絡があった。

「選ばれたよ」


 返す言葉がノドに詰まる。

 もしかしてこの日が来てしまったら、なんて声をかけることになるのか。

 そう考えていた自分の精一杯が「そっか」であった。


 ワーワーに選ばれた者は、一月の後半になると公然に発表されることになる。

 そして、参加者と親しいどーぶつ達は最後の日まで精一杯協力をするのも恒例である。

 

 何が出来るか。

 生存確率を上げるため、どうすれば王を笑わせることが出来るかを一緒に考えていくのだ。

 やぎ氏の報告以降、私も力の限り協力をした。


 彼が命運を共にする相棒は【さる氏】

 さる氏は我々より少し年上で、明るく家族を大切にする良きどーぶつだった。

 私は時間があれば、二人が考えた王への対策に付き合った。

 去年は、さる氏とも親交は深まったように思う。

 

 そんなことを思い出しながら、出来るだけ真ん中の席を探した。


 開始の時間になると、舞台から盛大な音楽が流れる。

 同時に飛び出してくる。

 あの二人が舞台に揃う。

 制限時間は三分。

 命の審査が始まる。


 やぎ氏、さる氏、両雄が躍動する。

 一年間考えた結論が本番で発揮されていた。

 

 どっ。

 わっ。

 どーぶつ達は笑う。

 今回の英雄を、全力で盛り上げる。


 私も笑う。

 笑うしかない。

 あの二人を助ける。

 出来ることは、ただ笑うことだけなのだ。


 観客席は舞台に向かいアリーナとして組まれている。

 ぎっしり埋まったその段の頂上に、居る。


 王。


 観客達の大爆笑。

 その隙間を縫い、王へと目をやった。

 自分のいる場所から遠く、暗く、小さいその表情は変わっていなかった。

 特別な椅子に座り、頬杖だけが理解できる。

 

 笑っていない。

 今年も不動。


 そして、三分の時が経過したことをラッパの音が我々に告げた。










 

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