第39話:待機

「まさか、ここまでの大事になるとはね」


 冬樹はテーブルの脚に自身の足をかけ、椅子の一部を宙に浮かせながら天井を仰ぎ見ていた。美希に準備しておけとは言われたものの、これと言って特にやることはない。強いていえば、今のうち美味しいものを食べておくくらいだろう。


「隙ありっ!」


 ゆりかご状態の冬樹の隙をつき、渚は彼女の近くに置いてあるイチゴパフェを一口いただく。隙ありと冬樹に聞こえるように行ったのは多少なりとも疾しい思いがあると思ったのだろう。


「あっ! 私のイチゴパフェ返しなさい!」

「口の中にあるので、無理でーーーす!」

「くそっ……」


 冬樹は腕を組み、外方を向く。渚は頬を両手で抑え、幸せそうにイチゴパフェの味を堪能していた。相反する構図を前にしながら玲奈はストローでメロンスムージーを吸っていた。


「よくそんなに気楽でいられますね。これから大きな事件を前にしなければいけないと言うのに」

「むしろ逆よ! 今のうちに幸せな想いをしとかないと次いつできるかわからなくなるからね!」

「なるほど」

「それにしても、ここにいる特別公務課全員、今回の件で召集をかけられた人たちなの?」


 冬樹は自分たち三人が座っているテーブル以外に目を通す。食堂だけでも100人くらいいるのではないかと思うほど人がいる。彼らも自分たちと同じく話したり、情報収集のためレイヤーを眺めている感じだ。


 最初に入った時は少数だったが、気がつけば大人数で埋め尽くされていた。これくらい人がいれば、学校をサボったことを湊につかれても弁明の余地はあるなと冬樹は心の中で笑みを浮かべた。


「だね! 平日の昼間だから、こんなに集まるとは思わなかったわ! 自分たちの負担が軽くなって楽になるわね!」

「そうもいかないでしょ。昨日の襲撃事件で確保できたのは7人中0人。意外と役立たずな奴らばかりな気がするわね」

「言ってくれるじゃねえか。お嬢ちゃん」


 冬樹が悪口を言うと隣のテーブルの男たちに声をかけられる。見たところ冬樹よりも少しばかし年は上で大学生くらいと言ったところだろう。渚は「やっちゃった」と言った感じで呆れ顔を見せる。玲奈は特に何も思うことなく、メロンスムージーを手にした。


「あまり敵を増やすような言葉は言っちゃいけないな。これは調教が必要じゃねえか。ついでに隣の二人も連れてくか」


 男たちは卑猥な目で冬樹たちを見る。

 特別公務課とはいえ、あくまで再生者だから仕方なく登録した身にすぎない。中には、こうしたどうしようもない連中もいる。

 冬樹は全身の霊気を湧き上がらせる。貴様らみたいなやつに付き合ってる暇はないのだ。


「お兄さん方。あまりうちの親友のことを疾しい目で見ないでね」


 すると見知った人物が男の一人の肩を叩く。すると、その男が突如椅子から崩れ落ち、倒れる。他の男たちは驚いた様子で彼を見た。

 

「他の人もこうなりたくなかったら、そこをどいてね」


 見知った人物は倒れた男の体を踏みつける。非道なことをしながらも笑顔を保っている彼を不気味に思ったのか男たちはその場から去っていった。踏みつけられた男も足を離すとおどおどしながらも退散していく。


「最近は色々なところでナンパがあるんだね」

「あれがナンパに見えた湊はどうかしてるよ?」


 冬樹は目の前に佇む湊を見ながらイチゴパフェを一口食べる。

 

「湊さん、お久!!」

「お久しぶりです!」

「二人とも久しぶり! 隣いいかな?」


 二人の了承を得ると湊は玲奈と冬樹の間に座る。


「いつからいたの?」

「えーーっと、三時間前くらいかな」

「へーー、そうなんだ」

「うん。だから冬樹が学校サボってここに来るのをちゃーんと見てたからね」

「……」


 冬樹は無言の沈黙を貫いた。あの湊が昨日発覚した事実を疎かにするはずもなかった。にしても、つけていたとは。全く気配を感じ取れなかった自分を不甲斐なく思う。


「相変わらず仲良しですね」

「そっちもね。二人は学校大丈夫なの?」

「特別休暇措置を依頼しましたので、大丈夫かと」


「さすがは玲奈ちゃんだね。冬樹とは大違いだ」

「いえいえ。こちらも世話が焼ける相方を連れているので」

「玲奈、誰が世話が焼ける相方だって!」


 渚は不満を漏らす視線を玲奈に送る。玲奈は気にすることなくメロンのスムージーを啜った。


『特別公務課全員に告ぐ。都内で霊力による殺人事件が発生。今後も同じ動きが見られると予測。全員都内の警備にあたれ』


 話しているとアナウンスが室内全体に流れる。それを聞いて、特別公務課の人たちは次々とリープをしていく。


「意外と早いタイミングで事件が発生したね」

「一人が行ったと言うことは予測通り次々と人が殺される可能性がありそうですね」

「それで殺された人に対して、またあのメールを送る。やっていることは特別公務課と変わらない。ただし、向こうのは賞金付き。そっちに飛び込むのは見て明らかね」

「となると、私たちも油を塗っている暇はないね。いくとするか!」


 渚の合図とともに四人もまたリープすることとした。

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【未完】メタ・アース・オンライン 〜仮想空間で殺された俺は『特別な力』を授かって舞い戻る〜 結城 刹那 @Saikyo-braster7

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