第13話:リアル世界の生活
明くる日、俺はモノレールに揺られながらリアル世界の風景を眺めていた。
目の前に広がる大自然。現在のリアル世界は自然の多い大陸となっている。局所的にスマートシティとなるものができており、スマートシティ間は自然を挟んでいる。
移動手段はスマートシティ内は自動車を利用し、スマートシティ間はモノレールに乗って移動をする。これら二つともAIによる完全自動操縦となっており、事故率は脅威の0パーセントを誇っている。
柊さんの自宅は俺のいるスマートシティの隣にあるようで、そこへ向けてモノレールに乗車していた。隣街の自然を眺めていたらすぐに辿り着いた。改札を出て最寄りの公園へと歩いていく。
スマートシティと呼ばれているが、ネットに繋がっているだけで都市と呼ばれるほどビルが立ち往生しているわけではない。都市内にも自然は多く公園やアスレチック施設などが多数存在する。
メタ・アースが構築されたことによってショッピングモールやレストランなどはなく、あるのはスポーツジムやアミューズメントパーク、喫茶店など体を動かしたり、会話を楽しむ食事をする物が多く存在する。
リアル世界での目的は、『健康第一の生活』となっており、栄養バランスのいい食事や運動など身体の健康に欠かせないものを補給できるようになっている。
天気は快晴。晴れ晴れとした太陽に、自然によって差し出された新鮮な空気を吸って気分が上がる。季節は夏であるが、自然による影響で駅周辺は涼しい風が吹いていた。
小鳥の囀りを聴きながら、人通りの少ない道を歩きつつ、待ち合わせ場所の公園へと足を運んでいく。時間的には余裕があるためゆっくりと景色を眺めながら歩いて行った。普段はメタ・アースへとログインしてしまうため、外へと出たのはかなり久しぶりだ。隣のスマートシティなんて何年ぶりだろうか。
しばらく歩くと待ち合わせ場所の広場まで辿りつく。
人の姿がちらほら見える中、一人の人物が椅子から立ち上がるとこちらへ向けて手を挙げた。照れ臭く肩くらいまでしか手をあげていないのが、彼女らしかった。
頭に帽子を被り、長袖の薄手パーカーにショートパンツ、レギンスを履いている。黒色に水色のラインが入ったものだった。
初めて見る彼女の私服姿。とはいえ、リアル世界のため、オシャレ服ではなく運動用の服だったのが残念だ。
斯く言う俺も彼女と同じく薄手のウィンドブレーカーに長ズボンと運動用の服を着ていた。昨日、会う約束をしたとき、柊さんにスポーツウェアを着てくるよう言われたのだ。
「早かったね。何時ごろからここにいたの?」
「大体20分前くらいかしら」
「随分と早くからいたみたいだね。もしかして、会うの楽しみにしてくれたとか?」
「そう言うわけではないから。私のいるスマートシティで待ち合わせの約束をしたのに、私が遅れるなんていう不甲斐ない思いはしたくなかっただけよ。そんなことより……」
柊さんは一度俺を足先から顔までゆっくりと見渡す。好きな人からこんな風にジロジロと見られるとなんだか照れくさいな。
「何かついてますかね?」
「いえ、リアル世界で結城くんと会ったのは初めてだと思ってね。やっぱりメタ・アースのアバターと全く変わらないのね」
そうか。柊さんの本当の姿を見るのは今日が初めてだったのか。改めてメタ・アースのアバターの再現度の高さを思い知らされた。柊さんに言われなかったら、全く気づかずに今日を過ごしていた可能性がある。
「この場合、はじめましてというのが正しいのかしら?」
「まあ、もう何度も話している中だから、普通におはようでいいんじゃない?」
「そうね。おはよう、結城くん。急に呼び出してしまって、ごめんなさい。それもリアル世界に」
「そんなことないよ。柊さんからの誘いなんて嬉しい限りだよ。それで今日はなぜ、こんな格好を?」
「特訓をしようと思ったの? メタ・アースの世界では霊力、識力は鍛えられても基礎的な部分は鍛えられないからね」
「基礎的な部分って、まさか?」
「もちろん、筋力や体力よ。そのためのスポーツウェア」
メタ・アースのアバターの再現度が高い理由はカプセルに入った時の自分の身体情報をスキャンするためである。椅子に座り、カプセルが閉じられることで360度体の周りを解析して、アバターを自動作成する。
そのため、リアル世界で体を鍛えさえすれば、メタ・アースの自分のアバターも筋力、体力を挙げた状態にすることができる。逆にメタ・アースでいくら筋力・体力を鍛えようとしても、再度ログインしたら元の状態へと戻ってしまう。
「運動するのは分かっていたけど、筋トレか。今から明日が思いやられるな」
「筋肉痛を起こす前提なら、やる気は満々そうね。安心して、最初からハードなメニューをこなすわけではないから。じゃあ、早速行きましょ。まずはスポーツジムまでランニングからね。着いてきて」
そう言うと、柊さんは突然走り出す。
「えっ! いきなりかよっ!」
少し遅れて俺も地面を蹴って走り出す。前を行く柊さんに着いていこうとするが、彼女はなかなかの速さで、普段ジョギングする速さよりも少し速度を上げないと追いつけなかった。
ハードなメニューをこなすわけではないと言ったが、柊さん目線のハードではないが俺にとってのハードではないにならない気がしてきてしまった。
先に不安を残しつつも、目の前の柊さんに向けて足を動かした。
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