羨ましい


 今日はいすずと久しぶり夕飯の買い出しに来ていた。


「お兄ちゃん、結構買っちゃったねー」

「あぁ、そうだな」


 本当は袋1つ分くらい買う予定だったが、気がつけばパンパンの袋2つ持って歩いていた。


「まさか、こんなに買ってしまうとは」

「今日は、たくさん安かったからね」


 互いに一袋ずつ持ちながら、ゆっくりとした歩幅で歩いていく。

 

「大丈夫か? 重くないか?」

「もう、平気だって! 私結構力があるんだから」

「そうか?」


 いすずとそんな掛け合いをしている時、いすずの歩幅がピタリと止まった。

 何かをジッと見るいすず。

 視線を辿るとそこには、小学生くらいの女の子と高校生の男の子が手を繋ぎながら歩いていた。


「おにいちゃんと手を繋げて幸せです」

「そうか? 京は物好きだな」

「ふふっ」


 傍目から見ても、その2人はとても仲良しな兄妹に見えた。


「兄妹なら手を繋ぐのもありだよね、ブツブツ」

「いすず、どうしたんだ?」

「はっ!? 別にぃ」

「?」


 なぜか顔を赤らめて、手で顔をパタパタと仰ぐいすず。不思議に思ったが俺は気にせず歩くと、空いている手を誰かに握られた。


「い、いすず?」


 手を握ってきたのは、いすずだった。突然のことに、顔が赤くなる。


「さっきの子たちみたいに、きょ、兄妹なら手を繋いでも変じゃないんだよ」

「いやでも、さすがに恥ずかし……」

「あれー? お兄ちゃん、手を繋ぐの恥ずかしいの?」


 いつものように、バカにした笑いを浮かべるいすず。それに、カチンときた。


「……言ったな、自分だって恥ずかしいくせに!」

「別に恥ずかしくないもん」

「なら、このまま家まで帰ってやる!」

「いいよ! 別に!」


 売り言葉に買い言葉。結局俺たちはそのまま手を繋いで帰った。


 結論から言おう。めちゃくちゃはずかしかった。


「(恥ずかしがってるのは、俺だけかな)」


 チラリと隣りのいすずの横顔をうかがうと、耳が真っ赤に染まっていたのだった。


おしまい

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