第11話 いすずの部屋へレッツゴー!

 いすずの部屋は2階の角部屋にあった。俺とは一つ挟んで、隣の隣の部屋だ。


「いすずの部屋かぁ〜」

 

 今まで、いすずの部屋に入ったことがない。


 というのも、頑なにいすずが部屋の中に入れてくれなかったからだ。なぜか、「絶対に私の部屋に入んないで!」っと釘を刺されていたからだ。


 何かバレたくないものでもあるのか? なんてな。


 階段を上がり、いすずの部屋の前に到着する。いすずを体に持たらせながら、片手で鍵を開けた。


「はー、ここがいすずの部屋か」


 最初に部屋に入った印象は、シンプルなのと、あとめちゃくちゃいい匂いがするなって思った……変態か!?

 部屋の中は白で統一されており、雑貨とかがあまり置いてない。

 部屋に入ると甘い香りがして、少し落ち着かない。


「(いすずを寝かせて、さっさと出よう)」


 ベッドにいすずを寝かせる。いすずは口をむにゃむにゃ動かしながら、とても幸せそうな顔をしていた。


「ふふ」

「幸せそうな顔をしてるな」


 なんだか頬っぺたを突きたくなる顔だった。まぁ、触らないけど。あとでバレたら何か言われそうだし。


 毛布を被せて、さて部屋を出ようかなーっと思った。


「ん?」


 そんな時、本棚の上に写真立てがあるのに気がついた。なんとなく気になって、見てしまう。


「え」


 そこには、"俺の写真"が飾られていた。


 ……なぜ?


 疑問が頭の中を埋め尽くす。兄の写真を飾ってどうしたかったのか分からなかったからだ。


「まさか」


 俺が部屋に入るのを分かっていて、この写真を飾ったのか?


『あれれー? お兄ちゃん、まさか私がお兄ちゃんの写真飾ってるの見て動揺してる? 動揺しちゃってるの? ぷぷぷーっ』


 ありえそうなシチュエーションに苦笑いを浮かべ、もう一度写真を見る。ありえない展開だと思うけど。


俺は写真立てを持ち、ジィーっと観察した。


 その写真は俺がリビングで、本を読んでいるときの写真だった。

 いつのまに、撮られたのだろう? 普通兄の写真なんて飾るか?


 そこまで考えた時、あることが頭に浮かんだ。


「まさか、いすず。俺のことが好きなのか?」


 なんて考えたけど、


「お兄ちゃんざぁこ♪」


 生意気な態度からして、絶対にありえないと思った。まぁ、嫌われてはいないと思うけどな。


「……さて、夕飯まだだし。出前たのもーっと」


 今の写真は見なかったことにして、写真立てを本棚に置こうとした。

その時、写真立ての後ろがカタッと外れた。


「まずっ」


 慌てて拾い上げた時、そこにはもう一枚写真があった。それは幼いいすずが小さな男の子と2人で撮っている写真だった。緊張しているのか、いすずの笑顔はぎこちない。


「へぇー」


 俺はその写真に驚いた。その写真の男の子には見覚えがあったからだ。


「はは、こんなことあるんだな」


 俺はその写真を写真立てにしまうと、何ごともなかったかのように写真を元に戻した。


 見たことバレませんように!



 翌日。朝、起きてリビングに行くと、いすずがイスの上でちょこんと座っていた。

 またまた機嫌が悪いのか、目が笑ってなかった。


 それと、なんか変な香りがするような……


「お兄ちゃん、何か私にいうことない?」

「い、いうこと? ないかな」

「とぼけないで! 見たでしょ?」

「見たって何を?」

「そ、それは……」


 カァーッと顔を赤らめると、いすずはイスから立ち上がった。


「もう知らない!」


 そのままの勢いで部屋を出ていくのかと思ったが、


「……昨日は、ありがとう。私のワガママ聞いてくれて」


 いつも俺の前では、生意気なことしか言わないいすず。そんないすずが、俺にお礼を言っただと!?


「いすず……成長したな」

「ちょっ、なに感動してるのよバカ! あと朝ごはん作ったから食べてよね」

「えっ」


 それだけ言うと、いすずはリビングから出て行った。


 さっきから気になっていたんだよね、このヤバい匂い。


 よく見たら机の上には、おぞまい何かが置かれていた。


 あー、うー。


「と、とりあえず食べますか」


 いすずが忙しい中、せっかく作ってくれた料理だからな。


「辛っ! ぎゅ、牛乳……!」


 いすずの作った料理は相変わらずで、(今日は全て辛かった)全部食べた。

 が、学校に行ったら体調を崩し……


「で、朝礼で倒れたわけね」

「……」

「いすずちゃん、そんなに料理かすごかったのか。知らなかったよ」

「た、頼む青! 今度いすずに料理を教えてくれ……(ガクッ)」

「ひ、弘人!? おい、大丈夫か弘人!」


 ユサユサと肩を揺さぶられ、ハッと目を覚ます。


「弘人! よかった〜」

「俺は一体どこにいるんだ? 一瞬キレイな花畑に居たはずなんだけど?」

「全然大丈夫じゃないんだけど!?」


 そのあと青に看病してもらい、なんとか回復した。


「ふぅ、ありがとうな青」

「どういたしまして」


 呆れつつも青は、優しい顔で微笑んでくれた。青と話している最中に倒れた俺を保健室まで連れて行き、看病してくれた青。まじで、青には感謝しかない!!

(けど、どうやって保健室まで運んだのだろうか?)



 一度授業があるということで青は授業に戻り、再びお昼休みに保健室にきてくれた。


「あっ、さっきいってたやついいぞ」

「さっきいってたやつ? あっ料理の件?」

「そうそう、いすずちゃんの暇な時に教えにいくよ」

「青〜、なにからなにまでありがとう!」

「幼馴染のピンチだからな! 助けるのは当たり前だ! それより、今はゆっくり休むんだ」


 人差し指を伸ばすと、青は俺のおでこを押した。俺はそのままベッドに倒れこむ。


「今日体調悪くなったの、日頃の疲れもあったんじゃないか? 最近毎日のように練習していたみたいだし」

「かもな。でも、本番無様な姿だけは見せられないからな」

「相変わらず頑張り過ぎなんだよ。休むことをちゃんと覚えろよ。今日は1日ゆっくり休みなさい! あたしがクラスの人に言っておくからさ」


 青は俺の頭に手を伸ばすと、優しく頭を撫でてくれた。その感触はとても気持ちよくて、ふわぁっとあくびをしてしまう。


「眠いのか? そばに居るから安心していいぞ」

「俺は子どもか! まぁ、安心して眠れるけどさ」

「だろ? 今はゆっくり休むんだ。おやすみ、弘人」


 その日は久しぶりにゆっくり眠ることが、できた。


 最近、バタバタしていたからな。


 おかげで目を覚ました時には、体調は元に戻っていた。


「ありがとう、青。お礼になんかおごるよ!」

「じゃあ、体育祭終わったら今度駅前のパフェを奢ってよ! また2人でカップルパフェ食べようぜ!」

「いいな、それ! 俺も久しぶりにあそこのパフェ食べたかったんだよねー」

「じゃあ、約束な!」

「おぅ」


 俺たちは昔からやっていたゆびきりげんまんをしたのだった。

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