第2話 お兄ちゃんのその顔が好き♡

「お兄ちゃん♡」


 星夜いすず……俺の義理の妹であり、100年に一度の逸材といわれた人気アイドル。

 現在はソロで活動をしていて、最近は女優活動なんかもやっているらしい。

 なんでもそつなくこなすことができる才能を持っており、また見た目の綺麗さから"いすず様"と呼ばれているとか。

 今をときめかせるアイドルは誰か? と100人に聞いたら、100人がいすずと答えるだろ。

 そのくらいいすずは、有名なアイドルなのだ。


「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「いや、別に」

「ふーん」


 だから最初父親が連れてきた再婚相手の娘が、いすずだった時はかなり驚いてしまった。まさか星夜いすずと兄妹になろうとは、誰が想像できるだろう。


「はじめまして、星夜いすず《ほしや いすず》っていいます」


 けど、いすずと話をしていくうちにこの子となら兄妹になっていけると思っていた。

 素直で優しくて、明るい"いすず"となら。


「それより、2リットのペットボトル買ってきてくれてありがとう」

「……」

「あれれ、なんかいいたそうな顔をしているね?」

「だってそうだろ? いつもネット通販でペットボトルを頼んでいるのに、雨が降ってる今日に限って買ってこいってワガママいうんだからな」


 しかし半年を過ごすうちに、いすずの化けの皮が剥がれていったのだ。


「だってー、お兄ちゃんの苦しそうな顔を見たかったんだもん!」


 素直で優しくて、明るい妹……ではなく、生意気でワガママな妹だったのだ。


「ほぅ、やっぱりわざと買い物に行かせたのか? おかげで、俺はビショビショなんだけど」


 イライラした気持ちを抑え、俺は笑顔を浮かべた。


 いすずのことだ、きっと何か生意気なことをいって俺をからかってくるに違いない!


「買って来てくれてありがとう。お兄ちゃん」

「え」

「お風呂沸かしてあるから、早くあったまった方がいいよ」

「お、お風呂?」

「ほら、早く」


 けど、いすずはいつものようにからかってこなかった。

 それどころか、お風呂まで沸かして気遣ってくれたのだ。


 濡れた体を押されて、お風呂場まで連れて行かれた。


「私向こうに行くから。お兄ちゃんゆっくり入ってね」

「お、おぅ」


 なんだか、拍子抜けしてしまった。まさか、こうも気遣われるとは思ってもみなかったからだ。まさか、びしょ濡れにさせたことを反省しているのか?


「あっ」

「ん? どうしたんだ?」

「お兄ちゃんに言ってなかったことがあるんだけど」


 いきなりいすずが、俺の耳元に口を寄せる。すると……


「私、お兄ちゃんの前に先にお風呂に入ったんだ」

「へ?」

「だから、私で変な妄想をしないでよね」

「なっ!?」


 今、なんて言った? 最初にお風呂に入っただと?


 その瞬間、顔が急激に熱くなった。

 それってつまり……!

 いつもなら俺が先にお風呂場を使っていた。いすずの場合は、夜の仕事を終えた後に入るか、事務所で入ってきたりするから滅多にうちの風呂を使うことはなかった。

 それなのに、今日に限って先に風呂に入っただと!?


 妹とはいえ、半年前に兄妹になったばかりの義理の妹。異性としてちょっと意識してしまうのは、仕方ないことだった。


「あれー? お兄ちゃん。なんだか、顔が赤くなってない」

「べべ別に、赤くなってなんて……」

「そっか、そっか」


 そんな俺を、面白そうに眺めるいすず。


 くっ、まさか攻撃されるなんて思わなかった。不意打ちなんて、卑怯だ!!


「お兄ちゃんの入浴をよりよくするために、教えてあげるね。私、胸から先に洗うタイプなんだよね」

「っ!」


 うっかり引き寄せられるように、いすずの胸を見てしまう。大きくて柔らかそうな、胸。Dくらいあるんじゃないか?


「ふふ、想像しちゃった? 想像しちゃうよね!」

「そ、想像するわけないだろ!!」

「うそ、だって顔真っ赤だよ」


 指先を伸ばし、俺の頬をツンツンと触ってくるいすず。


「お兄ちゃんが、私でいっぱいになってくれて嬉しいなー! だって私、お兄ちゃんが私にからかわれて顔を真っ赤にしている姿を見るのが大好きだからね!」

「なっ!」

「じゃあね、お兄ちゃん! 想像しちゃうかもだけど、お風呂ゆっくり入ってね!!」

「い、いすず!!」


 いすずは、クスクスと笑いながら自分の部屋に向かっていってしまった。

 油断して、からかわれてしまった。


「じゃあね、お兄ちゃん! 想像しちゃうかもだけど、お風呂ゆっくり入ってね!!」


 誰が想像するか! 誰がお前なんかを!!


 俺は勢いよく風呂場のドアを閉めると、服を脱ぎ、シャワーを浴びた。


 しかし、


「お兄ちゃんの入浴をより豊かにするために、教えてあげるね。私、胸から先に洗うタイプなんだよね」


 とか。


「私、お兄ちゃんの前に先にお風呂に入ったんだ」

「へ?」

「だから、私で変な妄想をしないでよね」

「なっ!?」


 とかを思い出してしまい、結局ゆっくりお風呂に入ることができなかった。


 お風呂に入るのがしゃくで、俺はシャワーだけ浴びて出たのだった。

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