夏 その七

 しばらく日曜の深夜の時間帯にひとりでいると、この世には自分しかいないんじゃないかみたいな感覚に襲われることもある。

 多くのトンネルを抜ける山の高速道路は、海側の高速道路とは明らかに雰囲気が違った。ましてや日曜の深夜。

 夜闇の中に溶け込む木々や草花も眠っているように思われた。

「草木も眠る丑三つ時、か」

 それにしても、夜の闇というのは、本当に深いもんなんだな。何もかもが夜の闇に溶け込んで、消えてしまったようだ。

 ミライースは淡々と高速道路を走る。

 こんなんで眠たくならないかって? いいや、全然。出かける前にあらかじめ休んで昼寝もばっちりしていたので、眠気に襲われることはなかったし。

 やっぱり愛車でドライブに行くのは、テンションが上がる。

 まあ、眠気に襲われてどうしても、ってときは、パーキングエリアやサービスエリアで休憩している。

 いくらひねたオレでも、自ら事故を誘発するような愚かな真似はしない。

 走る、走る、夜の闇の中を、ひたすら走る。

 月も煌々と輝く。星も瞬く。

 山を抜け、地元の市街地沿いまで帰ってきた。そこで、サービスエリアに入る。

 少ないがサービスエリアには数台の車やトラックが停まっている。トラックのアイドリング音も静かにさえずるように響く。

 このクソ暑いなかでエアコンなしでは眠れたもんじゃないもんな。

 このトラックのアイドリングを夜のサービスエリアやパーキングエリアで聞くと、なんかドライブの雰囲気を感じるのだった。

 レストランや土産物屋に、フードコートのある建物があるが、全部閉まって、閑散としている。自動販売機だけが健気に光って飲み物を売っていた。

 トイレを使わせてもらって。

 自動販売機で缶コーヒーを買って、すすった。

 すすりながら、夜空を見上げる。

 もうすぐ自宅だけど、もうすぐだからこそ、気持ちを入れ替えるためにサービスエリアに立ち寄った。もうすぐという時こそ、油断をしてあらぬトラブルやアクシデントもあるかもしれなかった。それを防ぐために、このサービスエリアに立ち寄るのは無事帰宅のための儀式みたいなもんだった。

「今日も走ったなあ」

 ひと息ついて、気持ちを入れ替え。ミライースに乗って。

 自宅を目指し高速道路に乗った。と思ったら、すぐにインターチェンジ。下道に降りる。

 街に降りれば、さすがにほかの車もちらほら見受けられたし。街灯や信号、コンビニに明かりは灯っているが。

 やっぱり街は眠っていた。

 ラジオをつけた。

 ラジオも民法のは放送が終わっていた。国営放送に周波数を合わせる。

 ラジオから聴こえる、その落ち着いた口調を耳にして。なんだか、

「おかえりなさい」

 と言われたような気がしたのだった。

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