第7話 泥のように眠る
目が覚めた時には、辺りは暗くなっていた。夜だった。
子供は近くにはおらず、階下からの物音で、リビングにいることは見当がついた。
電気をつけることもなく、ノロノロと慣れた階段を下りた。途中、何故だか下へ行けばいつものように夫がいる気がした。感覚的に。
もちろんそんなはずはない。子供がゲームで暇を潰していて、私を見ると「大丈夫?」と聞いてきた。
私は「いっぱい寝た気がする。ありがとね。貴方、起きているけど、ちゃんと寝れた?」と聞き返すと子供も頷いていた。
「何か食べなきゃね。食べたいものある?」
「マック」
「そだね。食べに行っちゃおうか」
子供はマックで夕御飯を食べるのが好きだった。田舎の大きな道沿いにある小さな店で、持ち帰るよりそこで食べたがった。小さな頃から。
私の隣に子供が座って、夫は向かい側に座る。夫はビックマックに単品のバーガー、私はテリヤキで子供はチーズバーガー。飲み物は決まっていて、ミルクティーのアイスかホット。だいたいは、そんな感じ。
注文をすませたら、子供が向かい側に座った。なんとなく気遣いを感じて、まだ中学生なのに、と、ちょっとすまなく思った。
ダブルチーズバーガーを頬張っている我が子に、ちょっと前まではチーズバーガーひとつも食べきれなくて(幼稚園児だった頃)私と半分こしてたのになぁとか、ナゲットを分けあいながら、よく食べるようになったなーとか。
隣を歩けば自分より背が高くて、改めて子供は夫似なんだなぁって。
ほっとしてしまったせいか、どんどん切なくなってしまった。すごく深く眠ったはずなのに、頭はすっきりせず上手く働かなかった。
それでも私達は生きているし、日々は続くし、おそらく色んな物事はなるようになっていくんだろう。
ぼんやりぼんやり、疲れきった頭でもそれは分かった。
これからずっと、あの人がいない世界で生きていく。
救いは‘’私達”という言葉が使えることか。………今はまだ、と、自分の気持ちに釘を刺しておく。
ぼんやり、ぼんやり、自立しないといけないな、なんて思いながらバーガーを頬張った。
アラフォーで、扶養内パート主婦で、旦那様という大きな庇護のなかでぬくぬく生活していた自分だけど。
せめてあと七年。目の前の子供が大人になるまで耐えようと、弱々しく思った。そこまでは辛くても耐えよう。
自分がどこまで一人でやれるのか、どれだけ耐えられるのか、本当に未知数だったけれど、目指す方向はちゃんと理解できている気がした。
夕御飯を食べ終えて、いつも通り食べた物の片付けをして、私の運転する車で帰った。
なるべくいつも通りを心がけよう。あの人がいないこと以外、いつも通り。
たぶん、この日帰宅して玄関をくぐった時から、私と子供の新たな『二人暮らし』が始まった。
本当に、ナントカ系小説と称されるような、異世界転移の主人公の気持ちに近かったんじゃないかと思う。
とにかく生き延びよう、と、そんなことばかり考えていた。
そんな人生の転機、始まりだった。
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