第19話 告白
「まずは羽田行きの飛行機に乗って、羽田でまた乗り換えるがよ。三時ばあには向こうの空港に着くぜよ」
「ええ……」
函館駅から函館空港に向かうバスに乗っている間、
「いとさん、そんなに気ぃ落とさんかよ。えいこともきっとあるがよ」
と淑枝が慰めると
「うんそうね、ほんと……そ……う」
と喉から絞り出すと口元を手で覆い、大きな丸眼鏡の向こうの瞳から一
歩く時の愛玲奈は、まるで重たい捕縄に拘束されたままとぼとぼと歩く罪人であるかのように俯き、ゆっくりと歩みを進める。その歩く速度の遅さに淑枝は苛立ちつつもどこか哀れを誘うものを感じるのだった。
函館空港に着く。愛玲奈は正に亀の歩みでバスから降りて虚ろな表情で出発ターミナルまで連れていかれる。淑枝はまるで自分が悪い事でもしているような気分に駆られた。
チェックインカウンターで搭乗券を受け取り、淑枝だけが荷物を預けそして二階の搭乗口に向かおうとエスカレーターに乗り、二人は搭乗口に向かった。その時。
「
その声に素早く反応した愛玲奈は今までとは全く別人のような敏捷性で振り向く。
「
十メートルほど先に凪沙が立っていた。凪沙を見た
「今さら何しに来たがぜ、この根性なしが」
「
「でも、だめ。私お父様たちを裏切れない!」
「裏切りじゃない。
「われ、なんちゅうこと言いよるがよ! ほいたら、藤峯のうちにしといたご恩を忘れちょるがか!」
「恩に報いろと言うなら報いる。だがわたし達は藤峯家の召使じゃない。
「愛しちゅうもん? おんし、ほんまに何言いゆうがよ?」
淑枝は呆気にとられた顔をする。
「ほいたら、いとさんにはええ相手がおって、それで逃げて来たっちゅうがか?」
「愛しているの…… 愛しているんです…… 心の底から……」
「そりゃ一体誰なが? 村のもんながぜ?」
「その男、今どこにおるがぜ? 今何をしゆうがぜ?」
動揺した淑枝の詰問に
「どういうことなが? そねえじゃ意味が分からんがよ」
苛立ちの表情を見せる淑枝。
「違うっ、違うのっ、男の人じゃないんですっ」
「男やないが? 言いゆうことがまっこと分からんがぜ……」
困惑する淑枝を前にして号泣する
「凪沙がっ…… 私凪沙をっ…… 凪沙をっ…… 私っ」
号泣する
「その相手はわたしなんだ」
淑枝が状況を把握するまでに四秒かかった。
「なんちゅうたが? 今、なんて言うたが?」
その間、淑枝は滑稽なほどポカーンと口を広げて思考が停止していた。だがその後の動作は機敏だった。
「おまんがっ、おまんがっ、女だてらにいとさんとねんごろになって、たぶらかした挙句に駆け落ちしよったがか! なんちゅうことをしでかしちゅうがぞ! このクソガキがぁっ! 許さんっ! 許さんぜよっ!」
凪沙のいるところまでつかつかと駆け寄ると、過酷な林業に携わる者の堅牢な拳を固めて凪沙の顔を殴る淑枝。まるで叩いて憑き物を落とそうとしているかのようだ。眼を剥き怒り、憎悪、嫌悪、困惑、恐怖がない交ぜになった表情を見せる。凪沙は敢えて抵抗も回避もしない。ただ黙って殴られるだけだった。凪沙の顔に青あざが浮かび上がる。恐怖に駆られた
◆次回 第20話 愛
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