第65話

 その数週間後。

 学校の授業を終えた私は、いつも通り深層でトレーニングを積んでいた。

 モンスターハウスを利用してモンスターを倒し、片っ端から食べて回るのが効率が良い。おもちくんいわく、「ソレガ、イチバン、コウリツイイトオモウ。デモ、ヨソノ、ダンジョンニ、イッタホウガ……」と言っていたから間違いないと思う。

 余所のダンジョンに行くのは、丁重にお断りしておいたけれど。

 昨日、ついにレベルは4973に到達したのだ。


「ついに今日でたどり着きますね!」


 水晶を持ち歩き、定期的にレベルを測定するのも忘れない。

 そうして数時間後、ついにレベルが5000に到達し……、


【焼き鳥食べるよ~!】


私は、ウキウキと配信を立ち上げる。

突発的なゲリラ配信と呼ばれる枠であった。

「食材の皆さん、こんレイナ~!」


"《望月 雪乃》こんレイナ~"

"お、ゲリラだ!"

"イチコメ、ゆきのんで草"

"めちゃくちゃ張り付いていらっしゃるw"

"《望月 雪乃》最近は、レイナちゃん成分が足りなくて・・・"


たしかに最近は、トレーニングに集中していて配信頻度は控えめだったからね。

週1回の雑談配信しか、やってなかったっけ。


"あれ、枠名??"


「はい! 枠名の通り、フェニックスの焼き鳥を食べに行きます!」


"草、なんかゲリラでやばいの始まったw"

"え、今日?? え・・・???"

"【悲報】フェニックスくん、すでに焼き鳥として見られている模様"


「はい! ついに、レベルが5000になったので、見に行ってみようかなと!」

肩の上では、おもちくんが今日もぷるんぷるんと震えている。

きっと、オススメしていたフェニックスの丸焼きを食べられる今日という日を、楽しみにしてくれていたのだろう。


"《鈴木 千佳》ちょっ、聞いてないで!?"

"《ミライ》あたいも食べたいッス!"

"みんな困惑してるじゃねえか!"

"ウッソでしょ、サプライズなのww"


「はい! さっきレベル5000になったので配信立ち上げました!」

ニコニコ無邪気に答える私。


"5000ww"

"もうこれわかんねえな"

"3000からの速度が早すぎるw"


――そうして後日、新たな伝説としてダンジョン探索者の間で語られることになる、ゲリラ深層ボス攻略配信が始まるのであった。



場所は深層一一層のボス部屋の前。

フェニックスに挑む直前の待機スペースである。


"おい、マスターを呼んでこい!"

"歴史的瞬間! 見てるのが俺だけなんてありえないぞ!?"

"最前線攻略の時間だ~!"

"え? てかフェニックスの階層、もっと先だったよね?"


「あ、フェニックスのボス部屋の前までは、とりあえず進めておきました。」


"ふぁ~っ!?"

"と・り・あ・え・ずwwww"

"いや、なんでそこ配信してないの!"


「ちなみにレベルを上げやすかったのは、九層にあるトラップでしたね。美味しいレアモンスターがポコポコ湧いてくれます」


 おもちくんに誘われて入った部屋であり、始めて引っかかった日はびっくりしたけど、終わって見れば美味しいモンスターが食べ放題の素敵空間だったのだ。

 「美味しい狩り場を見つけてくれてありがとう」とお礼を言ったら、おもちくんは絶句してたっけ。


"《鈴木 千佳》レイナ、とりあえず後でお説教な。危ないことしてないて言ってたな?"

"マネちゃんはいつも胃痛"


「あ、危ないことはしてないですよ!?」

ちょっとだけ、ちょっとだけ――と様子見に行ってみたら、なんかそのまま進めてしまった場所が多かったのだ。


"《鈴木 千佳》ボス部屋単凸は命知らず過ぎるて言うとるんや!!!"

"禿同"

"さすがに反省してほしい"


私が千佳とそんなことを話していると、


"フェニックス配信はじまるのまじ?(英語)"

"日本の配信者がやばいことやってるってタレコミあったけど、やっぱり捕食者配信か。今日なはにがはじまるんです?(英語)"

"フェニックス挑むらしい(英語)"

"わっつ!? こないだファッキンカニ倒してたような。ジャパニーズダンジョン、そんなに階層進んでるの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、裏でフェニックスのボス前までは攻略済(英語)"

"いくらなんでも、深層ボス単体攻略なんて美味しいシチュエーションを配信に載せないはずがないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"


ざわざわとコメント欄の勢いが増していく。

いつもと比べて、またしても英語コメントが多く残されているようだ。


(そろそろ進んで大丈夫ですかね)


ゲリラ配信だったこともあり、最初は数千人だった同接数。

それが、みるみるうちに万、十万――と上がっていくのを見て、


「それじゃあ、そろそろ――」


"待って待って待って待ってww"

"今、リーダー叩き起こしてるから!"

"アメリカだと今深夜だししゃあないw"

"こんなの本当なら、大々的に宣伝撃って始めるよね!?"

"なんで、こんな雑談の延長みたいなテンションで始まるのよw"

"つ【闇鍋配信】"

"そもそもこの枠名も、「焼き鳥食べるよ~!」なのギャップがひどいw"

"こんな歴史的な配信、見るのが俺たちだけとかありえないって!"


コメントで懇願され、ボスに挑むのを待つように懇願されてしまう私。


"《ミライ》あたいも行きたいッス~!"


「ダメです! ミライちゃんは、まだカニさんソロで倒せないので、その先は立入禁止です!」


"《ミライ》しゅん・・・"

"????"

"もう誰も入れないってw"

"深層ボスのソロ討伐ぐらい、当たり前だよなあ?"

"これが、ダンジョンイーターズクオリティか"


おもちくんいわく、フェニックスは、これまでの比にならないぐらいの強敵らしい。

即撤退も視野に、まずは様子見から行きたいところだ。


"《マイン》・・・え? あれに、本気にソロで挑むの?"

"すっかりレイナちゃん配信の常連になってるな、この子"

"あ、そうか。マインちゃんのチームは、フェニックス討伐経験あるんだっけ"

"海外だと一時期話題になってたよな。カニ野郎とタメ張るクソボスと聞いたけど・・・"


「マインちゃんもこんにちは!」


マインちゃんは、ときどき私の配信に顔を覗かせてくれるアメリカでトップランカーとして名を轟かせる有名探索者だ。

もっぱら私のサインを呪術の触媒としてコレクションしているらしい。


「今日も、サインはしませんよ!」


"《マイン》しょんぼり"

"《マイン》たまには新作、生み出してほしい・・・"

"《マイン》それはそうとして、本当にこれから一人でボス攻略を…………?"


「はい!」

私が元気よくうなずくと、


"《マイン》これから私も、深層入口にいく"

"《マイン》合流したい"

"!?"

"マインちゃん、今、日本にいるの?"

"突発コラボ配信!?"


私はマインちゃんから、思わぬ提案をもらうことになる。


「分かりました!」


私は、そう頷き返す。

フェニックスを倒した後は、剛腕さんも呼んで、深層の入口で、みんなで美味しく焼き鳥を食べるつもりだったからだ。


(一緒に食べる人は、多ければ多いほどよいですからね!)

(これはますます、急いでフェニックスを狩らないといけませんね!)


それから数分後。

「では、挑みます!」

そう宣言して、私はボス部屋の扉を開け放つ。


"ちょっ!? え、えええ!?"

"本当に始まっちゃったwww"

"ええい、うちのリーダーはなにをしている!? まだ寝てるのか!"


コメント欄が、凄い勢いで流れている。


(さすがに未知のボス戦を、コメントを拾いながら挑むのは無謀ですよね)

(えっと、ここをこうして、撮影モードはオンにして――)


私は、コメントを意識的に脳内からシャットアウト。

来たるべきボス戦に意識を集中するのであった。


――一方、コメント欄。


"ねえ、今のマインちゃん、おそらくデュオのお誘いなんじゃ?"

"もしかしなくてもそう"

"マインちゃん、なんで日本に?"

"レイナちゃん、戻って! 合流してあげて"

"レイナちゃん「フェニックスをみんなで食べるよ!」"

"まじでそう思ってそうなんだよなあ・・・"

"誰かレイナちゃんに探索者の常識教えてやってw"

"ダンジョン学園は、いったい何を教えているの!?"


その直後そんなコメントが流れ続けていたが、レイナが、そのコメントたちを見るのはもう少し先のこととなる。

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