第7話
「ぎゃああぁぁぁぁぁああ!」
「何が起こった!」
「そっそんなぁぁぁ!」
「目が、飛び出てるぞ!」
「……おい、どうした?」
ロミナさんは平然として、首をひねっている。
「ロミナさん、おかしいです!」
僕は大声で叫ぶ。
「何が?」
僕は少し迷った。
左上に向かって、とんがった目玉の先を見ながら言うか、それとも元々目の合った位置を見るべきかで。
「目が、飛び出てます!」
飛び出した目の先端を見上げ言った。
「……目が飛び出てるって、また、わけのわからない事を……」
「君、なんともないのか?」
おじさんが尋ねる。
「何ともないに決まっているだろう」
言いながら、ロミナさんは急に両足を上げ、まんぐり返しの状態になって宙に浮いた。
「なんなんだ、一体!」
おじさんが後ずさりする。
「なっなんで、こんな事が!」
「幻覚か、これは?」
「何やってんですロミナさん!」
「何が……一体お前ら何に驚いているんだ……?」
「何て恰好で宙に浮いてんで……て、うわあぁぁぁぁぁ!」
一瞬でロミナさんの体が上に伸びて、身長が3倍ちかくになった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は女の子みたいな悲鳴を上げる。
「おちつけ!」
おじさんが僕の体を抱きしめた。
「もう嫌、怖いぃぃぃぃぃ!」
「あの子から離れよう」
おじさんが僕の腕を掴む。
その瞬間、地面が盛り上がってロミナさんの体にめり込みだした。
とぐろを巻いた影が、どんどん大きくなっていく。
僕は、もうパニックになって叫び続ける。
おじさんも、どうして良いかわからず体は硬直していた。
影が、どんどん大きくなって辺りを飲み込んでいく。
辺りが、完全な暗闇になった。
完全な黒。
黒一色の視界に、ぽつんと目の前に、
『CE-109258055-1E-1アプリケーションでエラーが発生しました』
の文字が現れた。
「……何ですか……これ……?」
僕は、目の前にある文字を何度も読み続ける。
6度目を読んでいた時、後ろ向きに倒れ込んだ。
おじさんも、後ろ向きにガクンと倒れる。
僕は上体を起こし、あたりを眺めだした。
「……おい、どこだ、ここ。なんでこんな所で寝てるんだ」
おじさんが呟く。
「……何を被ってるんだ……」
頭に、コードがいっぱいつながれたヘルメットを被っていた。
僕はベッドの上にいる。
部屋にはおじさんと2人、ベッド2つと、ヘルメットとコードでつながれた装置が1個あるの窓のない部屋だった。
「おかえりなさいませ」
スーツを着た人がドアから入ってくる。
ピシッと髪をセットしていた。そして、とんでもなく高そうな時計をつけている腕を倒れている僕に差し出してくる。
「おそらくエラーが発生してから一瞬での目覚めでございましょうが、1日がお立ちになりました。起き上がり下さい」
僕は手を取り立ち上がった。
スーツを着た人は次々に倒れているおじさんに手を差し出す。
「なにが起こったんですか?」
僕は尋ねた。
「行先が違っていたぞ、いや、その前に、行先なんてものがあったのか」
おじさんが言う。
「どういう意味ですか」
「エラーが発生しました、という文字を見なかったのか。そしてこの場所、この装置」
「……ああ……」
僕も気づいた。
仮想現実技術だ、これ。
「理解が早くて助かります、ここではなんですので場所を変えましょう」
スーツを着た人は、僕らを転送装置が見下ろせる応接室に連れてきた。
「この旅行会社が詐欺だって言いふらしてやる」
僕は言った。
「コンピュータの誤作動で、皆様方のご旅行が台無しになったことを謝罪いたします。ご料金は全て返金致します」
スーツを着た人は深々と頭を下げる。
「そう言う事じゃないでしょう!」
僕は怒鳴った。
「異世界旅行なんて、なかったんですね」
「はい、すべてハイクオリティの仮想現実技術でございます。それには、本当に旅行に行くんだという洗脳のための手続きも必要なのでございます」
「詐欺じゃないか!」
おじさんが怒鳴る。
「俺はホントに原始時代的な世界に行けると、ウッホウッホできると、マンガ肉食えると、わくわくしてたんだぞ!」
「行けますとも、食べれますとも、我が社の技術をもってすれば味もすべてリアルに経験できますとも。今回の不具合は皆さまを転送する先が、シャンナークになってしまったというだけでございます」
「異世界なんてホントはないのに、あると嘘をついてるじゃないですか。いけないものを、それを、行けると言って金獲るのは詐欺でしょ」
スーツの人が頭を下げた。
「嘘をついたのは事実。ですので、皆様方にはご理解を願いたいのです。われわれは消して悪質な嘘ではないと、ペテンにかけただけでははないと、ご理解願いたく思います。我々の異世界旅行で、たくさんの人が楽しい休暇を過ごしております。そもそも、異世界がそのような世界なのは、彼らが想像していたからなのですから」
スーツの人は続けてもう一度、頭を深々と下げ、
「おふたりには、今後、無料での、当社でのご旅行券を差し上げさせてもらいます。わが社の誇る本物と何も変わらない仮想現実世界での異世界旅行が無料で可能になれますよ」
「誰が利用するか!」
僕ら言った。
「この事は、公表してやる!」
スーツの人は、ため息まじりに言いだす。
「良いですか、あなたがそんな事をすれば、もうあなた方がしたかった異世界旅行もできなくなるのですよ」
「良いよ、別に、行きたくもないから」
僕は言った。
「いや、待ってくれ……」
おじさんが俯く。
僕らは無言のまま、しばらく立ちすくむ形になった。
その間に、眼下の転送装置が光り輝き、鎧を着た男らの団体が戻ってくる。
あの人ら……僕の後ろに居た人達だ。めちゃくちゃ楽しそうな笑顔で、笑いあっている。
僕も、あんなふうな旅行がしたかったな……。
スライムに追われたっけ。ロミナさんに出会ったまでは良かったな……。
「さっお受け取り下さい」
スーツの人が、カードを配りだした。
「ご旅行券でございます、どこへでも、無料でご旅行出来ます」
差し出されたカードを、おじさんが、しぶしぶ受け取る。
僕にカードが差し出される。
では異世界での楽しい1日を ミーナ @akasawaon
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