透明な魔法障壁をレーザーで攻略する話
「はじめ」
審判の合図で、魔法の実技試験が始まる。
相手は100年に一度の天才として名高い魔法師団長だ。ふつうなら出てこないはずだけど、これは予備試験でのことが評価されたのだと自画自賛しておく。
「ファイアーボール」
まずは小手調べ。目の前に発生した炎が相手に向かって飛んでいく。上級者なら一度に複数のファイアーボールを作ることもできる。しかし飛んでいくのは一つだけに見える。そう、見た目だけは。
相手の近くに飛んで行ったファイアーボールは、当たる直前に4つに分裂する。複数のファイアーボールを同じ場所に発生させて一つに誤認させる独自の魔法で、拡散ファイアーボールと自分では呼んでいる。
左右と上、そして背後からの攻撃。しかし魔法障壁で全てはじかれる。
「なかなかやりますね」
と、こちらの攻撃をすべて防御した魔法師団長はうれしそうな顔をする。魔力の節約のために魔法障壁は前面だけにするのが一般的だが、この魔法師団長は全方向をカバーする球状の魔法障壁を展開している。
これが並みの魔法使いなら魔力切れを狙って長期戦に持ち込む選択もあるが、今回は相手の魔力量からしてむずかしい。魔力障壁はあらゆる魔法や物理的な攻撃を防ぐ透明なバリヤーのようなもので、中を見ることはできても攻撃は通らない。まあ普通の魔法使いなら、これでお手上げだ。
しかしこちらには奥の手がある。前世のおぼろげな記憶による科学を使った攻撃方法だ。
頭上の右上に円筒状の魔法障壁を展開する。そして空気中の二酸化炭素を選別して中にいれる。
さらに魔法障壁内部の二酸化炭素を魔法を使って励起する。前世ではフラッシュの光など物理的な力でやっていたことだが、魔法を使えばもっと簡単にできる。エネルギーが高まった二酸化炭素は、わずかに発光して円筒形の輪郭がうっすらと浮かび上がる。
炭酸ガスレーザー。これが前世の科学と魔法を組み合わせた奥の手だ。透明で中が見えるということは光が通り抜けられるということで、光線兵器なら魔法障壁にさえぎられることがないのは実験済みだ。
発射の前に狙いをしっかりと定める。まさか殺すわけにはいかないので、肩をかすめるくらいになるようにする。魔力による励起をさらに進めて、頭上の魔法によるレーザー発射装置の発光はさらに強くなる。
発射
光の速度で進むレーザーは人間の反応速度で対応できるはずもなく。狙った通りに相手の肩をかすめる、はずだった。
しかし突然不透明になった魔法障壁で、レーザーはあっさりと防がれてしまう。
奥の手が防がれてしまっては仕方なく、敗北を認めて試験は終了した。
実技試験で敗北したにも関わらず合格したので、試合相手の魔法師団長に聞いてみた。
「あの攻撃は発射したのを見てから防御しても絶対に間に合わないはずなのに、どうしてわかったんですか?」
「いや、あれだけ事前の発光とか魔力の集中があれば攻撃がくるのは簡単にわかるよね」
とのことだった。その後、一緒に欠点の改良に取り組むことになるのだけど、それはまた別の話。
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