一年前の私へ 3話
本部の様子を見渡して、ふと気が付いた。……水槽の中が空になっている。中にいたマナンは誰かが消滅させたんだろうか。そういえば、この施設は一体どうなるんだろう。いろいろと考えていたら誰かとぶつかった。
「きゃっ! ごめんなさい、真希ちゃん!」
それは柚葉ちゃんだった。
「いや、私がぼーっとしてたからで……って何その量!?」
柚葉ちゃんが手にしたお皿には、大量の料理が乗っていた。
「この料理、全部蘭さんの手作りなんですよ。どれもすっごく美味しいです!」
「へぇー!」
そのローストビーフも小籠包もお寿司も手作りなんだ……いや、ほんとすごいな、蘭さん。
「あっ! 真希ちゃん聞いてください! 私、この前の弓道の大会で初めて入賞したんです!」
「すごい! おめでとう!」
柚葉ちゃんは照れたように笑った。
「えへへ。これも真希ちゃんのおかげです。真希ちゃんが私に『大丈夫』って言ってくれたからです」
私が背中を押してもらったように、今度は私も誰かの背中を押してあげることが出来ていたんだ。
「柚葉ちゃん、今度弓道の大会、観にいってもいいかな?」
「是非是非! また入賞できるように頑張ります!」
柚葉ちゃんと別れるとちょっとお腹がすいてきた。確かに蘭さんの料理美味しそうだったからな。ちょっともらおう。
料理の置いてあるテーブルの近くに行くと寧々ちゃんがいた。
「おーい、真希ー。ちゃんと飲んでるかぁ?」
……この感じ、覚えがあるぞ。寧々ちゃんが持っているグラスを見ると、そこには黄金色の液体に泡ができた、まるでビールのようなものが入っていた。
「ちょっと、寧々ちゃん。これ貸してね」
「お、おい!」
寧々ちゃんの手からグラスを取り、一口味見する。前に飲んだものと同じ、フルーツ味のジュースだった。……とりあえずよかった。
「返せよぉ、真希ぃ」
「はいはい」
ノンアルコールだと確認できたから寧々ちゃんにグラスを返す。寧々ちゃんはグラスの中身をグイっと飲み干した。
「なあ真希ぃ。あたしはずっとさびじがっだんだぞぅ……」
そう言って急に泣き始めた。
「みんなに会いたかったけどぅ……連絡先知らないしぃ……ずっとずっと待ってたんだぞぅ……」
寧々ちゃんは私に抱きついてきた。いつもこのくらい素直なら分かりやすいんだけど……まあそんなところも寧々ちゃんの個性か。
「なんだ真希、寧々を泣かせたのか? 悪い女だな」
近くに来た蘭さんがからかってくる。
「もう、からかわないでください!」
「悪い。そう言えば私の手料理はどうだったかな」
そうだ、寧々ちゃんに気を取られていたけど、蘭さんの料理を取りに来たんだった。
「これから食べます!」
「そうか。かなり頑張って作ったんだ。途中でオーブンが壊れて新しいものを買いに行ったせいで準備に手間取ってしまったんだが……ここでの最後の集まりだからつい張り切ってしまってな」
もしかして、二時間後にって朔のところに連絡がきたのってそういうこと……?
というか、
「最後っていうのは……?」
「ああ、真希にはまだ言ってなかったな。DAMは正式に解体が決まって、この施設も来月取り壊しになるんだ。だからここでこうやって集まるのもこれが最後になるだろうと思ってな」
そうだったんだ……寂しいけど、マナンがいなくなった今、この世界にはもう必要ないものなんだ。
「蘭さん、いろいろとお世話になりました」
「いや、構わん。むしろこちらこそ色々と世話になった。……朔とつるぎが話したそうに見てくるからそろそろ主役を解放してやろう」
そう言って蘭さんは笑った。
朔とつるぎのところに行くと、朔が不機嫌そうだった。
「長い。話が長い」
つるぎがこそっと言う。
「朔も早く真希に報告したかったんですよ。外では言いにくいこともありますから」
「そっか……」
「ほら、朔。真希に報告して。」
つるぎが朔の背中をポンと押した。
「ああ……。真希、僕とつるぎのお父さんが無罪になった。そして今は家族三人で暮らしている」
無罪になったことはニュースで知っていたけど、朔の生活が心配だった。そっか、またお父さんとお母さんと一緒に暮らせているんだね。
「あと……あとな。四月から中学校に通うことになったんだ」
そっか……そっか……!
「よかった! 朔……!」
私は朔に抱きついた。
「お、おい!」
「じゃあ、お節介な小姑はここで消えますね。あとはお二人で」
意味深な言葉を残してつるぎは蘭さんの方に歩いて行った。
「……なあ、真希。僕が観覧車で言ったこと、覚えているか」
「うん……」
忘れるわけない。ずっとその続きが聞きたかった。
「やっと言える。真希、僕は真希のことが……」
「おい真希ぃー勝手にいなくなるなよぅ」
「ちょっと、寧々ちゃん!?」
ぎゅっと私の腰に抱きついてきた。
「ズルいです! 私ももっと真希ちゃんと話したいですぅ!」
「柚葉ちゃんまで!?」
柚葉ちゃんも私に抱きついてくる。
「すいません。今はお邪魔だからって止めたんですけど……」
祐太郎がため息をつく。
「みんな……僕の邪魔をするなぁぁぁー!」
朔の叫び声がDAM本部に響き渡った。
拝啓、一年前の私へ。
今は大好きな剣道を辞めて辛いと思う。自分から剣道を取ったら何が残るんだって、自分を責めて苦しいと思う。
でも負けないで。一年後にはこんなに大好きな仲間が出来るから。
だから、新たな出会いのチャンスを逃さないで。
不器用達が世界の危機を救うまで 亜瑠真白 @arumashiro
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