第27話 『氷河民族』
山田正紀さんの『氷河民族』という小説をご存じでしょうか。
昔読んだので、細かな所は忘れてしまったのですがすごく印象に残っている小説です。
主人公が交通事故を起こした女性が、不思議な存在で彼女のことを調べていくという筋立てでした。
それで、彼女にまつろう事柄に迫っていくんですが、結局の所、核心部には触れられないのです。なんというか、本質的な冒険譚になりそうな部分というか、中軸になる部分に迫れないのです。
友人の医師は、多分彼と違ってその本質的な部分に行ってしまうのに、主人公は取り残されてしまう。友人がどうなったかは、想像に過ぎないままです。
読み終わったとき、なんだこれはと思いました。その部分が未だに残っています。この小説が面白くなかったという訳では無いのです。ただ、主人公が脇役のままというのが、奇妙な読後感とともに残りました。
『氷河民族』を最初に読んだときは、置いてきぼりにされた主人公に憐れみを感じました。物語の中軸に入れない存在なのですから。それで一度読んだきりです。
普通、小説は大なり小なり事件があって、その中核を追っていくものだと思ってたんです。ところが主人公はその中心には触れられない。それがあること、自分はそれに触れられない事を痛感させられる。
今になって思うのは、この主人公の立場は読者と同じなのかもしれないのではないかと。そう思うと、もう一度読み直してみたいような、みたくないような、複雑な気持ちになりました。
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