第78話 遡り─2
◇────────
先の王妃シルファからフローライトのペンダントを託されたイザベル。
城内や国内で不審死が続き、ルシーダの存在に気が付いた彼女は、他の貴族と協力をしてメイソンを主体に追い詰め宰相の座から引きずり降ろした。
────────◇
「この時のメイソンは貴族ではなくなり、権力が一切なくなったらしいな」
カーターはイザベルの夫エリックと交流があり、この時は最大限の援助をしていたそうだ。
隣国ペルゼンに対しての軍備を整えていた原因だけあって、日記には「ざまあみろ」と書かれていた。
「フォックス家の領地は?」
ウイリアムの質問にはアルフレッドが答える。
「あちらはそもそもセルト様とアルト様が見てますから、巻き込まれさえしなければ非がない方々なんです」
兄弟はどの時でも、今と変わらず領地を守る事に注力していたようです、とオズは教えてくれる。
「ちなみにここでは、命の危険がない状態で逆行されています」
「権力も財力もない状態で、我慢が出来なかったのかしら?」
「宰相という地位から平民落ちだからな、プライドが許さなかったのかもしれん」
「冒険者なりして、稼げばいいのに…」
「アメリア、メイソンには無理です」
「ルシーダの魔法があるじゃない」
「…彼らが人を助ける事をすると思います?」
アメリアは顎に手を当て斜め上を見て3秒後、首を振った。
「筆頭メイドのくせに私の紅茶すら淹れなかった彼女が、疲れるような仕事をするわけ無いわね」
その言葉に全員が失笑した。
もちろんカーターには、アメリアが最後の時の遡り者だと告げてある。記憶があるのはそのためだ。
「次は…まぁ、想像つくとは思いますが…」
歯切れ悪くオズが伝える。
◇────────
イザベルはエリックとの間に設けた子供を生んだ直後、子供を盾に使用人に脅されて服毒死する。
メイソンたちは貴族や商会に対しても人質を使い脅す、もしくは殺害など、目に見える恐怖を植え付けて反旗を翻さないようにした。
フォックス家へ養子縁組されてウィリアムと結婚し王妃となったリリィ。
イザベルの夫エリックから密かに警告を受けていたリリィは怪しいメイドを退けた。
リリィに盲目的なウィリアムへ相談し、アルフレッドの協力もあり…離れの地下からクララを発見して彼女の力と魔剣、そしてフローライトを使いメイソンとルシーダを追い詰めた。
────────◇
「イザベル…」
「彼女はそんな昔から気が付いていて…目をつけられたんだな…」
ウイリアムは申し訳無さそうな顔をしている。
この話がつぶさに伝えられたのは、エリックがカーターたちに手を貸していたからだ。
日記には戦友を想う言葉が綴られていた。
「私が、フォックス家の養子…」
リリィは青い顔をしている。
「だからこそ、教養が付き…王へ進言したんだろう」
彼女はわずかながら光魔法をその身に宿している。そのためダイアナに取り込まれなかったのだろう、とカーターは言うが、残念そうに肩をすくませた。
「もう少しでルシーダがいなくなる、とこの時の俺はぬか喜びしていたようだな…」
「では次です!」
◇────────
王子たちは個々に教育され、ウイリアムはメイソンに頼るように意識を操作し育てられた。
リリィはフォックス家の養子にはならず、教育も施さずに…隠された王妃は離れへ閉じ込められ、王にも会えず、メイドに蔑まれすぐに衰弱死を迎える。
彼女は死ぬ直前、王へ「ルシーダを避けてほしい」と告げて亡くなった。
ウイリアムは嘆き悲しみ、彼女の言葉を元に王宮を調査をし始める。
アルフレッドや家臣にフォックス家が怪しい、と言われて一族郎党全てを殺害。
最後にメイソンを処刑しようとした。
────────◇
「ええ…」
自分がそんな事をしでかしたと聞いて、ウィリアムは引いているが、彼以外のトゥーリアの面々は「やりそうだな」と心の中で思った。
「クララさんは出てこないのね?」
アメリアの質問にオズは頷いた。
「結界はとても強いものでしたからね、この時点では誰かの助けなしには開かなかったのだと思います。では次です」
◇────────
ウィリアムとアルフレッドは完全に分断され、ウィリアムの教育は更に疎かにされる。
リリィは王妃にせずに離れへ幽閉された。
フォックス家からウィリアムより少しだけ年上の厳格な女性を呼んで王妃とし、王を制御しようとした。
しかし、王妃となった女性はメイソンのやり方に不満を持ち、ルイス(王子)の教育とエリザ(イザベルの娘・ルイスの婚約者)の王妃教育をしっかりとこなした。
この時、やっと危機感を覚えたフローライト神が聖女クロエを遣わす。
そしてクロエはルイス、エリザとともにダイアナ…ルシーダを追い込み討ち取ろうとした。
────────◇
「お、おしいわ!」
エリザ、ルイスと聞いてつい手に汗握ってしまったアメリアだ。
その言葉に頷きつつオズは補足する。
「王妃となった女性についてですが…光魔法を少し宿していたそうです。クララ様が夢枕に立ったとか」
原因と対策が同じ家出身というのは、なかなか不思議な関係だ。
今の彼女はとある領地にいて王宮とはなんら関係がないため、名前は伏せている。
「うまくいった策は次でも同じように実行されています。…では、次で最後ですよ」
◇────────
偽りの王妃にはアメリアが選ばれた。
ウィリアムと本当の王妃リリィの面会を許すかわりに、怪しい花を植えた。
第一王子のルイスは、王妃が忙しく見ていないところで密かに、悪意をもってダイアナや、メイソンの息のかかったメイド・文官が彼を教育した。
暗愚に育てたルイスを使いエリザを処刑しようとしたが、一族はペルゼンへ逃亡。
聖女クロエについては、彼女に執着していたルイスに閉じ込めるようにそそのかした。
そして偽りの王妃は後日処刑される。彼女を救うため、騎士団が突入するという…。
────────◇
アメリアの処刑の話が出て、会議室はしぃんとなった。
しかし彼女は驚いて声をあげる。
「騎士団!…ということは、マーカス様とお父様かしら?」
なぜだかちょっと嬉しそうだ。マーカスは「処刑されそうになってたのは貴女ですよ」という目をしながらアメリアに苦笑する。
「我々なら確実にそうしたでしょうね。私がジャックを抑えられると思えません」
「申し訳ありません…」
アメリアは父の激怒した様子を思い浮かべて謝る。ウィリアムは焦れて続きを促した。
「それで、処刑はされなかったんだよな?」
「ええ!もちろんです」
来世は穏やかに暮らしたいな、と思っていたらば影から声が聞こえた。
ダイアナの声で、悔しそうな、呆れた声。
「その後すぐに…きっと刃が降ろされたのね。でも、首まで到達しなかった」
まるで時が止まったように静まり、光る蝶が溢れ、ダイアナの叫び声が聞こえた。
首にそっと温かい何かが触れて、名前とともに「未来を変えて」という切羽詰まった声がした。
アルフレッドが納得がいったように頷く。
「なるほど、ギリギリのタイミングでクララ様の封印が解けたのですね」
「ええ。気がついたら結婚式で…ちょうど20年前でした」
静養地での話を騎士団から事前に聞いていたマルヒが静かに言う。
「…19年はフローライト神の言う通り、聖女の生きた年月でしょう。そして…」
クララが封印されていた離れの地下の、地上部分には光魔法を宿すリリィがいた。
「少しずつ、リリィ様より光の力を吸い取っていたのだと思います。後は予想となりますが…」
エリザの真摯な祈り、そして蝶の聖女でもあったクララへの詫びを加味して…その1年を追加して、20年という歳月を遡ったのでは、とマルヒは言う。
「だからなのね…」
フローライトは次のように言っていた。
【一人の少女の命と、一人の少女の願いと、一人の女性の対価】
よく考えると、3人いる。
クロエ、エリザ、クララ、ということか。
「皆…今…いないなんて…」
自分だけが存在している。遡って、歴史を変えたから。
アルフレッドは労うように、アメリアの固く握られた手へ手を重ねた。
ウィリアムは誰ともなしに呟く。
「結局の所、ローダークは何がしたかったんだろうか…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます