第76話 祝福
ウィリアムとリリィの結婚式は今度こそ国民たちの前で盛大に執り行われ、国民たちは平民からの王妃の誕生に湧き、彼らの幸せを祈った。
当初はグリーン公爵家の末娘という発表だったが、「隠すのは良くない」というウィリアムの一言で平民出身という事が公表され…隠し事を火種にしようとしていた一部の貴族が落胆したのは言うまでもない。
披露宴のあとウィリアムは王宮内の小神殿へ先王ウォルスと共に訪れ、神官長のルギーが見届ける中、厳かにフローライトの王印を授かり正式に王となった。
ルシーダのような者がいると知った今では王と神官長しか真の王印を知らないというのは納得だったが、これからは王一人に悪意が向かわないように要職に就く者には周知されることになる。
そしてフローライトは祭壇に捧げられ…ウィリアムの望む通り、五つに割れた。
元は蔦に囲まれた円の中に花を象ったひし形があり、その中に王冠が内包された印影だったが、次のように形を変えた。
王は太陽と王冠、王妃は三日月と王冠、王の補佐二人は星とハート、騎士団長は双剣をモチーフにした印影。
これらが全て押されると、分割する前の印影に変化する。
翌日に会議卓へと呼び出されて、興奮したウィリアムにそれらを託された者たちは一様に緊張した。
「これは…肌身離さず持っていないと駄目ですねぇ」
一番の年長であるマーカスが苦笑いをして言った。オズは他人事のように王印を観察している。
「紐を通す穴がありますよ。いたれりつくせりですね!」
以前の大きさがそのまま五分割していないのが幸いか。アメリアが以前付けていたようなペンダントほどの大きさの円柱となっている。
「まぁ、これも護り石になるでしょうから…」
「そうですね。これほど大きいのは中々ないわ」
アルフレッドとアメリアも観念したようにそれを受け取った。
「わ、わ、私なんかが持っても…いいのでしょうか…」
一番青い顔をしているのはリリィだ。手のひらの中のフローライトを凝視している。
「いいんだ!俺だって全ての書類を理解出来る訳じゃない。…皆に聞きながら、納得したら押せばいい」
「は…はい…」
説明されて納得できるかが怪しいが、頷くしか無い。
ウィリアムに頼まれた侍従がミスリルの鎖を持ってきたので皆に手渡された。
「ペンダントですか…せめて腕輪が…」
マーカスが鎖を通しつつブツブツ言うと、王印が光る。
「!」
それは彼の手の中で、ミスリルの鎖と融合して四角くカットされたフローライトを内包する腕輪に変化した。
興味深げに変化を見ていたオズがマーカスへ言う。
「…もしや、それを外すと?」
「……」
マーカスが無言でフローライトに「外す」意思を持って指をかけると、いとも簡単に外れて印象へと変化した。
「これ、もしかしなくても本人しか外れないんでしょうねぇ」
「でなければ、困るだろう」
「凄いです!!!!」
アメリアはその様子についはしゃいでしまった。
「私はえーっと…どうしようかしら」
腕輪はアルフレッドに贈られた物がある。そして思い浮かぶのは。
(クララさんの、ペンダント…)
ずっと胸元にあって自分を護り、導いてくれたもの。
ほとんど重さは感じていなかったが、鏡を見て”無いな”と思うと同時に少し寂しかったのだ。
「!」
アメリアの手の中でそれは光り、華奢な鎖の先には銀の蝶が翅を広げて…小さな八面体のフローライトを持って飛んでいるようなペンダントヘッドとなった。
「すごいわ…」
傍らで見ているアルフレッドも驚いている。
「蝶の聖女、クララ様の事を思い浮かべたんだね?」
「ええ!…ふふ、これでずっと一緒だわ」
嬉しそうに話すアメリアからペンダントを取って、アルフレッドは彼女の首にかける。
その様子を見てウィリアムとリリィも思案し、フローライトへ願った。
「リリィさんは指輪なのね」
すずらんが指を取り巻くような形になり、花の一つがフローライトになっている。
「はい。私は剣を握りませんし…」
左手の薬指はウィリアムから贈られた鈍い金色をした結婚指輪が光っている。もちろん、ウィリアムがすずらんの指輪を手に取り彼女の右手の中指に嵌めた。
「よく似合う」
「ありがとうございます。…ウィリアム様は?」
「俺はピアスだ。アルフィもそうじゃないか?」
彼が弟を見ると、彼もまた手のひらにピアスを乗せて苦笑していた。
「お互い、片方の耳が空いてますからね…」
「そうそう。少し気になってたんだ」
フローライトをピアスにした物だが、一対しかなく二人で分けて耳に付けていた。
「ここなら邪魔しないな!」
二人は仮に付けていたフローライトの石に似た色のピアスを外し、それをつける。
「似合ってます」
「色が同じだから、不自然さがなくなりました」
リリィとアメリアに言われて満更でもない二人だ。その様子をニコニコと見ていたオズへウィリアムが謝る。
「オズは…すまない」
王印を割る際にオズのことも頭にあったのだが、彼は騎士団長補佐という微妙な役職だから除外したのだ。
「いえ、いりませ…勿体ないお言葉です」
「今いらないって言いかけたな?」
「いえいえ。気のせいでございます」
(うちは騎士団長で十分です!)
国の命運を左右する事柄への決定権を持つのは非常に責任が重い。リリィに少々同情しているオズだ。
「さて…次は、アルフィの結婚式か」
「そうですね。準備は出来ています」
数年の間、王の公務をこなしていただけあり内外に顔が利く彼の準備に隙はない上に、エリオット公爵家が手伝ってくれるのである。「王よりは質素にするわ」というのがイザベルの言葉だ。
「家は?」
「もう大丈夫そうですね」
先日になってようやく、王都の王宮にほど近いメンデル家の屋敷の建て替えが終わったのだ。
事件当時、メイソンが”片付け”を引き受けたが、アンデットと化した使用人たちを閉じ込めていたようで外観は保っていたが中は廃墟同然になっていた。
そのため一度取り壊して土地を清めた後、再度、屋敷を建設した。
アメリアの希望で鍛錬の出来る庭に、屋内訓練場などもある。侯爵令嬢としてはおかしいが勇者の家らしい屋敷となった。
「アルフレッド・メンデルか…不思議な感じだな」
「そうですね。自分に苗字がつくというのは、考えていませんでした」
王家のスペアであるメンデル家。対外的には無くなったことになっているが、彼らの家名は先王ウォルスにより消されていなかった。血脈が断絶したことによる名消しと公爵位の削除について、書類がメイソンから出されていたが王印を押さなかったのだ。
アルフレッドはゆくゆく臣下へと下るつもりだったので、皆と相談してメンデル公爵を名乗る事になった。
役職は、宰相。
王の権力を分散し相談役を増やしたものの、やはり各大臣を統括する者が必要だ、という事になりウィリアムはアルフレッドへ頼み込んだ。
仕方なく引き受けたアルフレッドだったが、公務以外に仕事をやった事がないので正直に言うと王宮に居場所があり…今までの仕事を否定されずにいたと、ホッとしてアメリアにこぼしていた。
「俺になにかあったら、王になるからな」
「今の王宮なら、きちんと長生き出来ますよ」
やっと落ち着いた王宮内で、すぐに平和を乱そうとする者はほぼいない。
ウィリアムの発言も揺らぎなくしっかりしてきたから、彼を糾弾しようとする者も少なくなってきた。
「…十年したら交代しないか?」
「嫌ですよ」
「うう…リリィと旅行したい…」
「視察を入れると言ったじゃないですか」
「私的な旅行がしたいんだ!!」
「それは、退位してからにして下さい」
「アルフィが厳しい…」
宰相という役職らしくアルフレッドにぴしゃりと言われて拗ねたウィリアムを慰めるのは、リリィの役目だ。「旅行は逃げませんよ」と子供のように頭を撫でている。
若干締まりの無くなった室内に、オズが発言をした。
「さ、歓談はそれくらいにして下さいね。そろそろカーター氏が到着する頃です」
「!…わかった」
ウィリアムは顔を引き締めて周囲を見回し頷く。
ようやく国内が落ち着き、招待することができたのだ。
「…全員、出席だな?」
「はい」
「もちろんです」
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