第93話 冬の章(21)
私が知らないはずのお父さんとお母さんの記憶。私が知っている
小学校の入学式、遠足、運動会、学芸会、卒業式、中学での部活動、そんな経験のないものまで、まるで経験したことがあるかのように私の頭の中に思い浮かぶ。
「フリューゲル……ねぇ、フリューゲル。これって一体……?」
「白野? どうした、白野? 気分が悪いのか?」
膨大な記憶に混乱した私は、思わずフリューゲルに助けを求めた。そんな私の切羽詰まった声に、青島くんが心配そうに覗き込んできていた。しかし、今は、彼に返事を返す余裕はない。
「ねぇ、フリューゲル。近くにいるんだよね。お願い。出てきて。私、私……」
収まらない記憶の渦に朦朧としながら、私は立ち上がると、ふらふらとした足取りでどこへ向かうともなしに歩き出した。
「おい。白野。どうしたんだよ。ちょっと待てって」
呆然とした青島くんの声が背後から追ってきていた。
些細な日常の記憶が、次々と頭の中を流れていく。もう自分がどこにいるのかも分からなくなっていた私は、周りの状況など全く見えていなかった。
赤信号の横断歩道へふらふらと侵入した私を、車の眩しいヘッドライトと、けたたましいクラクションが襲う。
「白野!!」
クラクションと青島くんの鋭い声が辺りに響き渡る。眩しいライトとクラクション、そして、青島くんの切羽詰まった叫び声で我に帰った私だったが、耳をつん裂くようなブレーキ音を立てて、ものすごい勢いで突っ込んでくる車に足がすくみ、体が固まってしまった。
車は、その場で動けずにいる私のすぐ目の前まで迫ってきている。
もう、ダメだ。
すぐに襲ってくるであろう衝撃に身構えたとき、迫り来る車のヘッドライトよりも、もっと明るい白い光が辺り一面を包む。たくさんの白い羽根がふわりと舞った。
これは翼? ……そうか、司祭様だ。司祭様が、また助けてくださったんだ。
そう思った途端、力が抜けた。
足から崩れ落ちた私は、その場に倒れ込む。
遠くの方で誰かが必死で私を呼ぶ声を聞いたような気がしたけれど、それが誰の声だったのかを確認することもなく私は気を失った。
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