第17話 春の章(5)

 考えてみれば、これまで常に一緒にいたフリューゲルと、またいつでも話ができるようになったのだ。それだけでも十分じゃないか。もう、私は一人じゃなくなったのだから。


 すっかり萎れてしまったフリューゲルに、私は明るく声をかけた。


「ねぇ、フリューゲル。下界からはね、どんなに空を見上げても雲の上にある庭園ガーデンは見えないの。だから、これからは、あなたが私に庭園ガーデンでの出来事を教えてくれる?」

「うん。それなら任せて。なんでも聞いてよ。と言っても、庭園ガーデンは、特に変化はないけどね」


 顔を上げたフリューゲルは、いつもの様に的確に事実を述べる。そう、彼はそれでいい。フリューゲルは、いつもの落ち着きを取り戻したようだった。


「それじゃあ、大樹様リン・カ・ネーションの様子はどう?」

大樹様リン・カ・ネーションは、相変わらずだよ。あれから蕾の成長は止まったまま。成長しきった蕾がいくつかあるから、今はまだNoelノエルは生まれてくるけど、蕾の数はだんだん減ってきてる」

「そうなの……。それについて司祭様は何か仰ってるの?」

「何も。他のNoelノエルたちには、このことを伝えていないみたいだし」

「やっぱり、大樹様リン・カ・ネーションを元に戻すには『学び』が必要なのかしら……」

「司祭様がそう仰るんだから、きっとそれしか方法はないんだよ」


 やっぱり、私がすべき事は『学ぶ』ことなのだろう。それは分かっている。司祭様の仰ることに、私たちはいつだって従ってきた。そうすることが当たり前なのだ。


 ただ、私はここで何を学べばいいのか、それが分からない。大樹を救う方法が下界にはあるというのか?


「アーラ、どうしたの?」


 無口になった私を気遣うように、フリューゲルが声をかけてくれていたが、考え事に夢中になっていた私には、その声はほとんど聞こえていなかった。


 これから先、何をどうすれば良いのか。歩きながら必死で考えていると、塀に貼られたポスターが目に留まる。何かが心に引っかかり、私はポスターの前で立ち止まった。


 それは、大きな1本の木が中心にそびえていて、遠くのほうには豊に茂った森が広がっている写真だった。そして、スローガンが白い字で大きく書かれている。


“守ろう森林 増やそう豊な緑”


 そんなスローガン付きのポスターの発行元は『日本森林保護団体』というところらしい。


 中心の木はまるで、庭園ガーデンの大樹のように大きい。その大きな木をぼんやりと見つめているうちに、ふとある考えが浮かんできた。


「森林保護団体の人に会ってみようかな」

「どうして?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る