第12話 プロローグ(5)
司祭様はそんなフリューゲルにそっと微笑むと、まだ呆然としている私に向き直り、そっと声をかけてくださる。
「アーラ、下界へ行ってみませんか?」
私が、下界へ行くっ?
司祭様のお言葉に私は目を見開き、思わず上擦った声を出してしまった。
「で、ですが司祭様。私は、下界へ行き何をすればよいのですか?」
慌てる私の目を見つめ返し、司祭様は冷静に答えてくださる。
「学ぶのです」
「学ぶ? 何を?」
「それは、
そんな冷静に分からないと言われても……一体、私はどうすれば……?
現状が理解できなさすぎて、思わず顔が引き攣る。
すると、それまで考え込んでいたフリューゲルが、また司祭様へ質問した。
「あの、司祭様。質問をよろしいでしょうか?」
「はい。何でしょうか。フリューゲル」
「
「それも、
司祭様の答えに、フリューゲルの顔も心なしか強張って見える。他人に干渉しない
「とにかく、学ぶのです。アーラ。今、
そう言って笑みを浮かべている司祭様のお顔も、心なしか無理をされているようで、いつもの優雅な雰囲気は鳴りを潜めてしまっている。
私はフリューゲルに助けを求めた。
「フリューゲル、私、どうすればいいんだろう?」
「……僕たちNoelは、大樹様と司祭様のお心に従うしかないよ」
双子Noelでいつも側にいたフリューゲルは、いつだって私を助けてくれた。しかし、そんな彼も今は為す術なく頭を振る。
私たちの困惑をよそに、司祭様は少々雑に話を切り上げる。何か慌てているようなご様子。珍しいお姿だ。
「大丈夫ですよ。アーラ。
「あの……、いえ……、そういう事ではなくてですね……」
「では、アーラ。しっかりと学ぶのですよ」
「えっ……。あ、ちょっと……。司祭様……」
司祭様は、私の言葉も聞かず大樹に祈りを捧げ始める。すると突然、私の足元にあった白い地がぱっくりと割れた。
「ああ、忘れるところでした。貴方の下界でのお名前は、『つばさ』ですからね。お忘れなきように」
薄れていく意識の中で司祭様のそんなお言葉を聞きながら、私はみるみる下界へと落ちていった。
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