第10話 プロローグ(3)

 開花儀礼を終えると、司祭様が私たちに声をかけてきた。


「アーラ、フリューゲル、貴方方あなたがたにお話があります」

「はい。何でしょうか? 司祭様」


 私たちは声を揃えて答える。


「ここではなんですので、大樹様リン・カ・ネーションのお側で、お話しましょうね」


 司祭様は手招きをすると、私たちを大樹の近くへと誘う。大樹は揺るぎなく立ち、私たちを包み込むように枝葉を悠然と広げている。


「フリューゲル、今日の開花はいかがでしたか?」

「はい。司祭様。僕たちの仲間がまた一人増えました。とても、すばらしいことです」

「アーラ、貴方はいかがですか?」

「はい。司祭様。私もとてもすばらしいことだと思います」

「そうですね。仲間が増えることはとてもすばらしいことです。ですが……」


 司祭様は言葉を切り、大樹を仰ぎ見た。そんな司祭様のお姿は、まるで下界の人が困っているときのような、なにか、お顔に影を落とされているような感じにみえる。こんなお顔をなさるなんて、天使様には下界の人のような感情があるのだろうか。


「どうかなされたのですか? 司祭様」


 フリューゲルが声をかけると、司祭様は私たちに向き直り、こう切り出した。


「……時期が来たようですね。お二人とも、大樹様を御覧なさい」

「大樹様がどうかされたのですか?」


 私には、司祭様が何を仰りたいのか全然分からない。司祭様は何をお話になりたいのだろうか? 大樹はいつものように雄大に聳えているではないか。


 そのとき、私の隣で黙って大樹を見上げていたフリューゲルが、突然「あぁっ」と小さな声をあげた。


「司祭様。大樹様の蕾が……」


 フリューゲルが指すほうを見ると、大きく茂った大樹の蕾の中のいくつかが枯れ始めていた。遠くからでは分からなかったが、成長が止まってしまったのではないかと思われる蕾もある。


 こんなことは今まで見たことがない。大樹はどうしてしまったのか?


「司祭様。大樹様はどうなされたのですか? まさか、お弱りに?」

「大樹様は、時が来たことをわたくしたちにお知らせくださっているのですよ」

「時が来たこと?」


 何が起こるというのか? まさか、この平穏な白と青の世界に天変地異でも起こるというのか?


「アーラ、貴方は今日も下界を見ていましたね?」

「えっと……。あの……」


 答えに詰まっていると、司祭様は、私からフリューゲルに質問を移した。


「フリューゲル。アーラは、今日も下界を見ていましたか?」

「はい。司祭様。……しかし、それはいけないことでしょうか?」

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