第407話 リュカリュカの予想

 ボクが予想した展開はこうだ。

 土卿王国内で集められた冒険者を始めとする人たち――志願なのか、それとも強制徴兵なのかは不明――の訓練や適性を見るという名目で、国境近辺に群れを作っていたダークゴブリンたちの討伐を行ったのではないだろうか。

 その際に住処を追われた生き残りが先ほどボクたちが倒した一団だったと考えれば、一応の筋道は立つと思う。


 もしかすると、最初から討伐ではなく『風卿エリア』側に追い払うことが目的だったかもしれない。

 理由としてはジオグランド内で起きている出来事からこちらの、特にシャンディラの目を逸らさせることに始まり、戦力の消耗を狙ったものから、果ては単なる嫌がらせまで様々なことが考えられる。


 ただ、そちらの場合はそれこそもっと大量のダークゴブリンたちが流入してくることになっていただろう。

 そうなると当然シャンディラの軍や冒険者協会が動きを察知していたはずだから、可能性は低いのではないかとも思われます。

 あくまで、討ち漏らしたものについては深追いせずに見送った、というところじゃないかな。


 これなら仮に所業がバレて非難声明が出されたとしても、「新米の兵による軍事行動であったために不備が生じてしまった。以後は気を付けよう」的な感じで、のらりくらりと追及をかわすことだってできてしまいそうだもの。

 大人って汚いよね。


「どうかしたのか?」


 横合いからの声に意識が引き戻される。見るとアッシュさんとエクスカリオン君が心配そうにこちらを見ていた。

 ……アッシュさんはともかく、荷車を引いているエクスカリオン君はしっかりと前を見ていないと危ないと思うよ。


「別に調子が悪かったりする訳じゃないので大丈夫ですよ。ちょーっと考え事をしていただけなので」


 そんなツッコミを心の中に抑え込みつつ、ニッコリ笑顔で素敵なリュカリュカちゃんスマイルでもって応える。


「……あ、そ、そうか。なら良いんだが」


 一瞬呆けた後で顔を赤くしながら辛うじて聞き取れる声で返事をしてくれるアッシュさんです。


 最近ミルファやネイトからの扱いが微妙に粗雑になっているのでついつい忘れがちなのだけど、そういえばこのリュカリュカの容姿は一級品の中でも特級クラスに位置していたのだっけ。

 美形ぞろいと名高いエルフであるデュランさんと並んでも見劣りしない――おじいちゃん談――そうで、そんな美人さんから笑顔を向けられれば大抵の人はどぎまぎしてしまうってもんですな。


 え?自分で言うなって?

 いえいえ。これは単なる現状確認と自己肯定に過ぎませんぜ、旦那。


 まあ、自己肯定の方については一旦置いておくとしまして。

 これからさらに見ず知らずの土地へと足を踏み入れていく事になるのだ。自分や仲間の容姿をしっかり理解しておき、それによってどのような事件や出来事が発生してしまう可能性があるのかを思い描いておくのといないのでは、いざ何かが起きてしまった時の初動に大きな差がついてしまう。


 特に『OAW』には突発的に発生するランダムイベントがいくつも仕込まれているからね。油断していると何が起きるか分かったものじゃないのだ。

 現に今の状況だって先日発生したランダムイベントの『酔っ払いに絡まれた!?』の影響を受けている可能性は大いにある。

 だって、魔物に襲われている相手を助けてみれば絡んできていた相手だったのだ。

 そんな偶然がありますか?っていう話ですよ。


 何だかすっかり横道にそれるどころか、その先で獣道を見つけて迷い込んでしまったようになっているね。

 いい加減に話の筋を元に戻すとしましょうか。


「ちょっぴり大袈裟というか突拍子のないことだったので、考え事の内容は今のところはまだ秘密ということで」

「そうか。まあ、そこまで根掘り葉掘り聞きだそうとするほど野暮じゃないから、安心してくれ」


 そう言いながらもどことなる気になる様子を見せるアッシュさんだ。

 チロリと後方を垣間見てみると、御者席にいる二人も似たような顔つきになっている。好奇心がうずいた以上に下手をすれば自分たちの生活に悪影響が出るかもしれないと感じ取ったがゆえのことなのかもしれない。


 なんだかんだ言って街から街、そして村や町へと移動を繰り返す行商は、時に危険と隣り合わせの過酷なものだからね。

 まだまだ年若そうな三人だけど、そういう危険を察知する嗅覚はしっかりと培われているようだ。


 それでもまだまだ不明な点も多いこともあって、ボクの考えを披露する訳にはいかないのだけれど。

 仮にジオグランドの当局に話が漏れてしまったら、身柄を拘束されるかもしれないからね。それどころか根も葉もない噂を流したとして罰せられてしまう可能性すらある。

 出会ってからまだ間もない人たちを、そんな危険な状況に巻き込むわけにはいかないのですよ。


 とりあえずは『ボーダータウン』で様子を探ってみてから、ということになるだろうか。

 シャンディラの公主の縁者で信用の置ける相手を領主として『三国戦争』後に派遣したということになっているけれど、それから今までかれこれ百年以上の時が過ぎているのだ。

 最悪の場合は領主一族を始めとした上層部だけでなく、冒険者協会の支部といった組織も土卿王国側に取り込まれているかもしれない。

 それくらいの覚悟と用心深さは持っておくべきだろうね。


 そこから先は面倒な事件に巻き込まれることもなければ、強敵に遭遇するようなこともなく進むことができていた。

 時折街道から少し離れた場所にモヒカンバッファロー――背中のたてがみが頭頂部まで伸びていて、名前の通りの外見になっていた。肉が美味い――が目撃されたり、ファットダック――丸々と太った鴨さん。見た目からして美味しそう――が攻撃のつもりだったのか空から落下してきたりという程度だった。


「いや、ファットダックのほうは攻撃してきたから倒すのは当然だろうが、モヒカンバッファローはわざわざ倒す必要はなかったんじゃないのか……?」

「何をおっしゃいますか!美味しいお肉は常に確保して然るべき最重要品目ですよ」


 しかもレベルアップのための経験値にもなる、という二重の意味でボクたちの糧になってくれるのだから、狩らない手はないってもんです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る