第405話 剥ぎ取り解体
ダークゴブリンの群れは、お馬さんアタックや荷馬車でプチっとなっていたものも含めると、総勢で二十一体もの大所帯だった。
いやあ、行商人のお兄さんたちが手伝ってくれて助かったよ。ボクたちだけだったら
「相変わらずリュカリュカは変なところで潔癖ですわね」
若干呆れた顔でそう言うミルファだったが、ボクがほとんど使い物にならなかったのが遅れた原因であるため、大きな声では反論できなかったりする。
「ぐぬぬ……。だって敵対している魔物だったとしても人型の相手にナイフを突き立てたりできるはずないじゃん」
いくらゲームの中の世界であっても、リアルでの倫理観は染み付いてしまっているので、そうそう簡単には割り切ることはできないのだった。
「ですが、リュカリュカはそれで良いのではないでしょうか。魔物とはいえ命を奪うことに何も感じなくなってしまうと、また別の問題を引き起こしてしまいそうですから」
くぅ!ネイトの優しさに惚れちゃいそう!
後半はなんだか微妙に含みがある言い方だったような感じがしないでもないけれど、気にしないことにするよ。
「それにしても、君たちは強いな。たった三人、いや、テイムモンスターを含めれば五人か。それでも四倍近い数のダークゴブリンの群れに勝ってしまったんだからな。しかもあっちに居たやつはリーダーだったようじゃないか」
「ダークゴブリンたちがお兄さんたちを襲うのに夢中になっていたから勝てたようなものだよ。多分、正面から戦っていたら危なかったと思う」
お兄さんたちの一人が集めた討伐証明部位と微小サイズの魔石を持ってきてくれたので、これ幸いとそちらの話題に乗っからせて頂きます。
「後、もしかするとリーダーに成り立てだったのかもしれないですよ。今から思い返すと、群れへの指示の出し方や配下の動かし方があまり上手くなかったような気がするし」
自分一人だけ安全圏に逃げようとしてみたり、かと思えば前に出て戦おうとしてみたりと、行動にもちぐはぐな部分があったようにも思える。
「いやいや。いくらリーダーで少しは賢くなっているとはいっても、元がダークゴブリンだから、それほどしっかりした指示を出したりすることはないから」
どうやら上位種や強い魔物でもなければ群れを的確に動かすようなことはないらしい。
苦笑いしながらお兄さんはボクの推論を否定していた。
「それはともかく、向こうにいたやつから剥ぎ取ることができたアイテムはこれで最後だ」
「どもども。ありがとうございます」
預かったアイテム類を確認することなく即座にアイテムボックスへと仕舞う。その様子に再び苦笑を浮かべるお兄さんです。
「命を助けてもらったことに比べれば、このくらい何でもないさ。それじゃあ、俺たちは出発の準備をするよ。終わったら声を掛けるからそれまではゆっくりしていてくれ」
これも何かの縁ということで、とりあえずは国境の街『ボーダータウン』までは彼らと一緒に行くことにしていたのだ。
お兄さんたちは戦える者が同行してくれて安心できて、ボクたちは交代で荷馬車に乗れるため楽ができると、いわゆるウィンウィンな関係というやつです。
「了解でーす」
荷馬車の方へと歩いていく後姿を見送りながら、メニュー画面からアイテムボックスのリストを開いて中身を見てみる。
そこにはダークゴブリンの討伐証明部位が二十一個と微小サイズの魔石が四個、そして小サイズの魔石一個が新たに加わっていた。
残念ながらというべきなのか、ダークゴブリンからはたまに取れる魔石を除けばアイテムや装備品に加工できる素材はない。
そして倒しても旨みがないということになると、放置されて大繁殖してしまう恐れがある。
そこで『冒険者協会』が考え出したのが『討伐証明部位』を設定しての換金だった。
そこまではいい。
むしろ冒険者にダークゴブリンのような害獣を倒させるための上手な方法だと思う。
が、問題はその証明となる部位にあった。
ダークゴブリンの場合、なんと右耳なのだ。想像してみて欲しい、袋の中に二十個以上のヒトっぽい生物の右耳ばかりが入っている様を。
えぐいよね、グロイよね、キモイよね。
ミルファやネイトも微妙に直視するのを避けるほどだもの。お兄さんたちや仲間たちから差し出されたそれを、ボクが速攻で仕舞い込んでいたのも当然の話だという訳です。
「うへえ……。やっぱり気持ち悪い……」
「仕方ありませんわ。討伐したと証明するには、その魔物の生体の一部を持ち帰るのが一番ですもの」
「これでもいくつかの候補の内で、マシなものになったという話ですね」
ネイトによると、鼻や指、はたまた内臓なども候補になったことがあるらしいです。確かにそれらに比べればまだマシと言えるのかもしれない。
ちなみに指では偽造が可能――詳しくは聞きたくありません!――ということで却下となったのだそうだ。
「しかし、ダークゴブリンが微小サイズではなく小サイズの魔石をもっているとは……。やはりリーダーは格が違うということなのかもしれませんね」
こういう部分での特別扱いならドンとこいだね。
旅費の足しとして換金するのもいいし、またドワーフの里で武器を作ってもらう時の素材として渡しても良さそうだ。その際の第一候補は、多分ネイトの杖ということになるだろうね。
「おーい!そろそろ出発するぞ!」
「はーい!」
そうこうしている間にお兄さんたちの準備も終わったようだ。
周囲の警戒と監視に当たっていたリーヴとエッ君とも合流して、荷馬車の所へと全員集合です。
「本当に荷台に乗るのは三人だけでいいのか?こいつは見た目以上に頑丈だし力もあるから、君たちなら全員乗っていても問題なく引いていけるぜ?」
「一応は護衛だからね。全員が荷台に乗っていると、咄嗟に反応ができなくなるかもしれないので。交代で乗せてもらえれば十分です」
お兄さんたちの方も二人は御者席だが、一人はお馬さんの横について歩くという形だから速さの方も問題ない。
ちなみに、交代でと言ったがネイトは〔警戒〕技能に専念してもらうため、常に荷台に居てもらう予定です。
残り少ない道のりのはずだけれど、頑張って国境の街まで行くとしましょうか!
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