第28話 店舗兼住居と平穏

 店舗兼住居は、商業ギルドから徒歩で10分程の場所にある。

 入り口は大通りに面しており、馬車と馬を入れておく厩舎も併設されている。

 建物の裏には畑もある。今は様々な植物が生い茂っているが……。

 1階は、店舗部分と錬金部屋、ダイニングキッチン、トイレ、物置があり、なんと風呂場まである。

 2階は、寝室が1部屋、客間が1部屋、空き部屋が3部屋、書斎に使っていただろう1部屋がある。

 寝具や生活に必要な細かい物は商業ギルドに頼んでおいたので、俺達が家の中を改めて見て回っている時に、ギルド職員が配達してくれた。

 

 空き部屋は、アイギスさんとイリアに使ってもらうことになっている。

 この町に着いた当初、アイギスさんは、家を借りるか買うか考えていたようだ。

 しかし、俺は、ここまで一緒に旅をしてきてアイギスさんには信頼も信用もあるので、お店の警備と錬金術に必要な物を町の外に出て手に入れてもらうって条件で住んでもらうことになった。

 その時、悩んでいたアイギスさんに向かってテマリがクゥーンっと鳴いたのが決定打となったようだが。

 まぁ異性と一つ屋根の下ってのは、若いアイギスさんにとっては自由に恋愛も出来ないし、異性との出会いも邪魔しちゃうし、そりゃ悩むよな。


 ……そう考えると、よくテマリで決めたな。

 まぁ、確かにテマリに見つめられて、あの声で鳴かれると威力があるよな。

 俺としては、頼れる美人なアイギスさんを雇えて良かった!

 グッジョブテマリ!


 店舗兼住居を手に入れてから数日間、建物内の浄化や修繕、足りない物の買い出しや開店の準備、ギルドへの納品をしながら過ごした。


 そして、ポーション等の準備が出来たので明日から店を開店する予定だ。

 イリアには、店員をやってもらう。

 アイギスさんは、今の所、すぐに必要な素材はないので自由にしてもらうことにした。

 するとアイギスさんから、畑を使わせて欲しいと言われたので、畑の一画を自由に使ってもらうことにした。

 

 お店などの話も終わった俺達は、タイニングキッチンでイリアに紅茶を入れてもらってくつろいでいた。

 アイギスさんはテマリを膝に乗せて可愛がっている。

 

「イリアの淹れる紅茶は、香りも味も良いね。こういうのって奴隷商館の教育?」


「いえ、昔商品としても扱っていましたので、そのおかげです」


「なるほどね。紅茶といえばクッキ……あっ!!」


「ッ!? 急に大きな声出さないでよ。イリアもテマリちゃんもびっくりしてるじゃない」


「ご、ごめん。いや大切なこと思い出してさ」


「大切なこと?」


「うん、女神様に異世界のお菓子を御供えする約束を思い出した」


 そう言うと、アイギスさんは硬直した。

 異変を感じたテマリは、アイギスさんの膝の上から飛び降りた。

 イリアは、冗談だと思ったのか微笑んでいる。


「ふふ、ご主人様、女神様とお話なんて物語の勇者様みたいでございますね」


「確かに勇者じゃないけどね」


「そうでござッ!? あ、あ、異世……ま、まさか本当に?」


「うん」


「なッ!」


 ガタッと立ち上がるアイギスさん。


「ご、ご主人様ッ! 女神様と御話されたんですか!?」


「アイギスさんもイリアも落ち着いて? 加護をもらった時に、落ち着いたら御供えしますって約束を思い出しただけだから」


「……ジョージさん、そもそも女神様と御話出来る人がこの世界にいると思ってるの?」


「え、いないの? あれ、そういえば教皇とか巫女とかって話は聞いたことないね。教会があるからいると思ってた」


「そうね。昔になるけど小さいながらも宗教国家はあったらしいけど、私利私欲のために御神託を自分勝手に解釈して好き放題したことで、神の怒りに触れて滅ぼされたの」


「滅ぼされた? でも結構気さくな女神様だったけどなぁ」


「……いないの! もう御神託を受ける人も、ましてや神様と御話出来る人なんて、いないのよ……」


 ドサッと椅子に崩れ落ちるように座るアイギスさん。


「気さくな女神様……」


 ヨロヨロと椅子に座るイリア。


「こんなこと知られたら、どうなるか……」


「そ、そこまで?」


 ジト目で2人が見つめてくる。


「あ、いや、マジで? え、でも勇者いるじゃん」


「宗教国家が滅ぼされてから、勇者を召喚してるのは誰?」


「誰って……あれ? そういえば女神様も私のせいじゃないけどって言ってた気がするな」


「ッ!? ……ふぅ、そういうこと。勇者を召喚してるのは神様じゃなくて人なの。だから、たとえ勇者だったとしても女神様と御話出来る人は稀なのよ」


「でも、職業が勇者や聖女とかって誰が決めてることになるんだ?」


「さぁ? そもそもこっちの世界の人のステータスに職業なんて無いもの」


「え……」


 マジか。

 異世界から来た人間だけ職業の欄があるのか。

 確かに、今まで誰かに聞いたことなかったかもしれない。


「だって、当たり前じゃない。職業なんて自分で決めるものでしょ? そんなの一々ステータスにあってもしょうがないじゃない」


「確かに……」


 そういえば、錬金術師になったつもりだったのに、ずっと無職のままだったわ。


「あの、ご主人様……いつ女神様との御約束を果たすのでしょうか?」


「うーん、落ち着いたらって約束だったから、そろそろかなぁ」


「そろそろ……でございますか……」


 イリアはそう呟き、テーブルに突っ伏してしまった。

 アイギスさんは、テマリちゃーんっと言って、テマリのもとへふらふらと近づいていった。

 

 どうもこれはすぐにでも、お菓子を御供えに行ったほうが良さげだな。


「あー、まだ時間もあるから、今日にしようかな」


 そう言うと、イリアはガバッと起き上がった。


「そ、そうですね! すぐに御約束を! 私もお手伝いいたします!」


「そ、そうか。ありがと」


 アイギスさんを見ると、何度も頷いていた。


 

 2人の心の平穏のためにも、急ぎ商店街まで走りお菓子に必要な材料や陶器のお皿などを購入した。


 そこまでのことだと思っていなかったので、ここは増量しておこう。

 でも、異世界のお菓子ってなんだろ?

 クッキーとかプリンってもう有りそうだよな……。

 ここまで勇者の影響があってプリンとかお供えしてない訳ないよな?

 いや、お供えして神様のもとまで届くのが、ごく稀な勇者や異世界人だけなら、それでもいいのか。

 確か簡単なものでもいいって言ってた気がするし。


 俺は、カラメル入りプリンと、イリアおすすめの紅茶を混ぜ込んだ甘いクッキー、最後にフワフワのパンケーキを焼いてバターとハチミツをたっぷりかけて、全てをマジックポーチにしまい、教会へと走った。


 教会に着いた俺は、シスターにお布施を渡し、女神像の前に向かった。

 夕方の教会は、シスターや神父のみだったので、女神像の前にお供えを広げても変な目で見られることもないだろう。

 流石にこのまま床に置くのはマズイ気がするので、床と持って来た布に浄化をかけて、その上に御供物を広げた。


 パンケーキは、作りたてで急いで来たので、バターが溶け出していて、とても美味しそうだ。


 俺は、両膝をついて眼を閉じ祈りを捧げた。



 大変お待たせ致しました。加護を頂いた異世界人のジョージです。

 生活も落ち着いて来たのでお菓子を作って来ました。

 遅くなってしまい申し訳ありません。

 そのお詫びというわけではありませんが、色々作って持って来ました。

 どうぞお納ください。


『お? やっほー! ようやく落ち着いたんだ? こっちの世界を楽しんでもらってなによりだよぉ。おぉ! クッキーとプリンにパンケーキもあるじゃん! じゃ貰ってくねぇ。あ、また気が向いた時でいいから、御供えよろしくねぇ』


 はい。了解です。


『ありがと〜! じゃまたねぇ!』


 俺は、閉じていためを開け祈りを終えた。

 敷き物にした布以外の御供え物は無くなっていた。 


 やっぱ気さくな感じな女神様だよなぁ。

 ま、俺にとってはありがたい加護もらえたし、これからもこの世界を楽しませてもらおう。


 その後、興奮した神父さんとシスターに詰め寄られたが、神様から秘密にするように言われたと言っておいた。 

 このくらいの嘘なら大丈夫だよね?

 神父さんもシスターも、ヘドバンかってくらい頷いてたけどね。

 まぁ、また御供えしに来るだろうし、その時は、この人達に協力してもらおう。



 こうして、お店の開店を前に、アイギスさんとイリアの心の平穏が訪れた。


 

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