2-3. いざ、冒険者組合へ

「一、十……ちっ、大してないな。」

「そ、そう言うなよ……これでも貯金してたんだぜ?」


マーデルの街の宿にて。

パサロの財産を漁っていたヴェンリオだが、予想通り奴の所持金に量はなかった。


ゴブリンにやられていたことから期待はしていなかったが、気分は悪い。


「まあいい。金は確かに回収した。」


そう言って部屋を出ようとするヴェンリオ。

だが、そこにパサロから待ったがかかった。


「な、なあ!これから、どうするんだ!?冒険者をやるなら、よかったら一緒に……!」


「断る。俺は冒険者にはならない。それに、ゴブリンにいいようにやられる奴をどう使えと?せいぜい一人で生き延びるんだな。」


街に来るまでの道中、ヴェンリオは冒険者のメリットやデメリットをパサロから聞いていた。

そして、旨味はないというのが結論だ。


バタン!と扉が閉まる。

取り付く島がないとはまさにこのことだった。


「身分証すらないのに、冒険者にはならない……?なら、何になるんだよ……」


そのボヤきは、誰の耳にも届かなかった。











冒険者にはならないと断言していたヴェンリオだが、パサロ宅を後にした彼が訪れたのは意外にも、冒険者が集まる冒険者組合だった。


目を引く木造の巨大な建築物は何の建物であるか明確なため、この来訪が間違いである可能性は低いだろう。


「……さて。」



――ガラガラーーン!!



ベルの喧しい音を立てて、大扉を開く。


その些か荒っぽい登場に一瞬周りから視線を集めるが、そのヴェンリオの顔つきから、よくある若さ故の勇んだ行為だと微笑ましく思い、その注目は収まった。


しかし朝から酒を飲むような連中なら、そんなやんちゃ坊主に絡んでいく者も存在する。


「よう坊主。派手な登場だな。」


荒くはあっても、特段派手というほどではない。が、酔っ払いにとって絡む理由などこれで十分だ。


そして日々の生活で”自己責任”が染み付いている他の冒険者は、あちゃー、というような顔はしても助けることは無い。


相手が一般人だろうとだ。無法者であろうと就ける職業である冒険者には常識は通用しない。


「そうか? 特に意識はしていないが。」

「あぁ!? その態度……てめぇ、俺を舐めてんのか?」

「……?」


ヴェンリオは周囲を見渡す。目を伏せる受付嬢、ニヤニヤとこちらを見る冒険者、無関心な者。ほんの僅かだが、悔しそうにする者。

様子は様々だが、は続く。

そしてひと通り目を通したところで。


「舐めているとして、お前は何の用なんだ?」

「……っ! よォし、わかった! そんなに死にてぇなら、ぶっ殺してやるよ!!」


手加減など微塵も感じさせない、大男の拳の一振り。酔っ払っているとはいえその巨体から放たれる本気の一撃に、少年の死を予感した周囲に緊張が走る。


が、その予想は大きく裏切られた。


「まぬけが。」


放たれた脅威の拳は、あっさりと片手で受け止められたのだ。そしてグシュッと音を立てて、その拳は握り潰される。

いや、ヴェンリオの手の大きさもあり、拳を指で抉られると言った方が的確か。


「ぐ、ぐわぁァぁあぁァッ!!!」


拳をおさえ、情けない叫び声を上げる大男。周囲の冒険者もすっかり酔いも覚めたのか、こちらを唖然とした顔で見つめている。


先程までほとんど反応のなかった受付嬢たちも、今は悲鳴をあげ腰を抜かしていた。


そしてヴェンリオは大男の泣き叫ぶ声の中、よく通る声で呟く。


「騒ぎを起こすつもりはなかったが……うるさいやつだ。そんなに死にたいなら殺してやろうか?」


「ちょっ……! お、落ち着けよ!」


冷たい声色から本気度を感じたのか、周りから止めに入る者が現れた。

声の主の方を一瞥する。


「落ち着け? 俺は落ち着いている。だからまだコイツは生きてるんだろうが。それに、攻守が変わっただけで態度が変わるお前の言葉を、俺が聞く義理があるとは思えないな。」


一通りの偵察、解析を終え、既にこの場にいるほとんどの人間は生かす価値すらないと思っているヴェンリオにとって、余計な仲裁はむしろ火に油。そのヴェンで見たようなどっちつかずな空気に殺意は増すばかりだ。


「気に入らないか? なら、お前が持っている剣を俺に向けてみろ。ちゃんと殺してやる。」


ピリピリとした空気はまさに一触即発。が、受付嬢が想像したような殺し合いは始まらなかった。


「そこまでだ。」


現れたのは酔っ払いを超える大男。

肌で感じるその実力は、獣人族の戦士ガルトくらいか。ほどほどに強さを感じる。

しかしガルトの力を喰らい、魔物をも喰らった今のヴェンリオの相手ではないだろう。


「何か用か?」


牽制のつもりか『威圧』を向けてきた大男に、それ以上の『威圧』をぶつける。


すると男は面食らったような顔をし、困ったようにため息をついた。


「うちの馬鹿共が悪かった。どうか矛を収めてくれねぇか? ケジメはつけさせる。」


「俺は元々矛なんて出していない。そいつの矛が勝手に折れただけだろ。」


「……全くもってその通りだな。」


「あぁ。しっかりケジメをつけさせろ。そうだな……首を撥ねてやるってのはどうだ?」


ザワッとどよめきが広がる。


「……それは無理だ。組合でできるのは、せいぜいランク降格か除名。だが、除名をするとヤケになって悪事を働く者がいる。そう簡単には……」


「悪事なら、除名しなくても働いているだろうが。冒険者でもない、一般人の俺を、殺すつもりだった。軽く酔っただけでなんだ。これ以上悪さをする前に殺してやるのが、優しさなんじゃないのか?」


「……それでも、殺すのは認められん。」


「…………ほぅ。」


わずかな沈黙。

そしてそれを破ったのはヴェンリオだった。


「なら、今日からそいつを俺の仲間にする。実は、手が足りないと思っててな……頼りになる仲間が欲しいと思っていたんだ。」


「……それは「いいよな?」」


瞬間、大男の首筋に走る、ピリッとした痛み。

手で触ってみると血が流れていた。

もはやこれ以上の譲歩は得られないであろうことは、似たような異常者を相手にしたことのある大男にはよく分かっている。


「……分かった。それでいい。」


折れた大男――この街の”冒険者組合長”アダロフは嘆息すると、ヴェンリオの提案を呑むのだった。

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