第7話 かんざしをあなたに
一鬼は圧倒的な力を示した。
その場に出現させた鬼火の数は千。
それらを見た桃鬼は、口をあけて驚く。
「あんた、いつの間にこんな力を……」
桃鬼にとって一鬼のその実力は予想外だったらしい。
さらに一鬼は、自分の角を光らせて体全体にうっすらとした黒い光を纏わせた。
それは見る者を深い闇の底に引きずり込むような、妙な威圧感を感じるものだった。
香子もその場の雰囲気が悲鳴をあげているような気持ちになってくる。
桃鬼は気圧されたようにその場にしりもちをついて呆然とする。
彼女の体は小刻みにふるえ、表情はひきつっていた。
一度立ち上がろうとしたが、できない。
「嘘でしょ。こんなの勝てっこない」
桃鬼の心は完全に折れたようだった。
子供達を保護して、それぞれの家に帰した後、夜が明けた。
香子は、少しだけ眠った後、鬼の国を出ていく事にした。
一鬼に呪いの事を聞いたところ、「確かにある」と答えが帰ってきた。
「一族の長である父がその呪いを一心に受けているから、俺達には今のところ影響はないが。父が弱ったりすると、俺達にも影響があるかもしれない」
彼はそう説明する。
一鬼は誓って今まで人間を食った事はないと告げた。
「食べるもなにも、呪いにかかったその日から人間の世界との行き来はなくなってしまっているからな」
「そうだったのですか」
それからとりとめのない話をしたのち、挨拶をする。
「達者でな」
「あなた達こそ」
鬼の国の未来を憂いた香子は、後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、人間の住む世界へと戻る事を選択した。
自分に出来る事はないと心に言い聞かせて。
その代わり、香子は自分が持っていた黒いかんざしを一鬼に手渡した。
「もし人間の世界で何かをするときは、これを使って」
「いいのか?」
「これくらいしかできないもの」
一鬼はありがたくそのかんざしを受け取る。
そうして香子は自分がいるべき世界と日常へと戻っていったのだった。
それから少しした後、香子は人間の世界で黒い角の鬼を見かける事になる。
その姿を見た彼女が、再び鬼の世界へ飛び込む事になろうとは、この時はまだ知らない事だった。
鬼の国チシオと人食いの呪い 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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