魔神回廊
盛り塩
第1話 覚醒
小野家に生まれ『だったら芋子じゃん』と女にもかかわらず、さらに字違いで名前を授けられたからではない。
いやもちろんそれも生涯(16)をかけて落ち込んできたが、今日は違う。
「バイト……クビになっちゃった…………」
せらせらと流れる、名前も覚えていない二級河川を眺めながら膝を抱える。
ボサボサに乱れたショートヘア。
負けずヨレヨレの白シャツに着古したカーゴパンツ。
整ってはいるが貧乏くさい顔が川波に揺れて泣いているよう。
所持金1万160円。
今日までのバイト代はすぐ振り込まれるが、それでも全財産で4万くらい。
「明日が家賃の支払いだから……だめだ、ほとんど無くなっちゃう……」
夕日が目に染みる。
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…………。
盛大にお腹も鳴った。
芋子の両親は一昨年に亡くなっていた。
交通事故で、二人ともあっけなく。
残された芋子は親戚を転々とし、お決まりのように嫌がられ、たらい回され、当然のごとく闇落ちしてしまった。
グレて(本人談)高校を中退し、居候先も飛び出した。
そんな彼女を止めてくれる親代わりなどいなかった。
出来が良いわけでもなく、育てたところで将来の見返りなんか期待できない遠縁の娘など、だれが大切にするだろうか。
それから一年。安アパートを借りて一人で生きてきた。
生活は決して楽じゃなかったが、余計な気を遣わなくていいぶん、それだけでも幸せだった。
飲食店のバイトをクビになったのは落ち度があったわけじゃない。
不景気と物価高騰による経営悪化で切られただけ。
(年齢偽装もバレていたかもしれない)
店長は表向き気まずそうにしていたが、慣れた様子で送り出してくれた。
せめてもの寸志にと包んでくれた1000円が物悲しい……。
「普通……1枚なら……1万入れるよね……?」
バイトにゃこれで充分だってか?
そ~~だろうよぉ、そうかもしんねぇなぁ~~、笑わかせてくれるなぁ(怒)
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~きゅるるるるるるるる……。
また腹がなった。
空腹と……後半は
この先の限界生活を考えれば、そりゃ胃腸も調子を崩すわな。
「……どっちだ? どっちだ私。食べるのか食べないのか?」
お金を考えると食べないほうがいい。
でも食わないと元気がなくなって心が弱くなり、今夜にでも首を吊ってしまうかもしれない……。
「……………………………………………………………………………………。」
そのとき、なぜか芋子の身体が黒く輝き、ピクリと跳ねた。
「――――はっ!!?? いかんいかん!! なにを考えてるんだ私!!」
自室でプランプランしている自分を想像して激しく首をふる。
謎に身体が光ったことにはまるで気付いていない。
「……や、やっぱりなんか食べよう、とにかく……考えるのはそれからで――――」
コンビニよりも少し遠いドラックストアに行ったほうがいい。
あそこならまだ300円台で弁当が買える。
時間的にもそろそろ半額シールが貼られるかもしれないし、いいタイミング。
立ち上がろうとしたところで、芋子の動きが止まった。
「――――…………うん? なにあれ?? あんなのさっきまであったっけ??」
河川敷の奥、高架下の影にぼやぁ~っと光る怪しげな看板が見えた。
その下、橋桁のコンクリに埋まる観音扉らしきものも。
「…………『
……なんだコレ? なんだこの見るからに怪しげな扉は?
歩いて近づき、その重厚な扉を見上げた。
高さは3メートルほど? 幅も同じくらい。材質は――鉄?
ひんやりとした重みが伝わってくる。
枠組みには古代西洋の彫刻を彷彿とさせる彫り物があり、天使と悪魔が絡み合って薄笑いを浮かべている。
なんとも不気味なこの扉は、平凡な河川敷に極めて不釣り合いな存在だった。
「これはぁ~~~~……特撮モノのセットとかなにか?」
キョロキョロと周囲を見回してみる。しかし誰もいない。
扉のデザイン的にライダー的な
時刻が時刻だけにもう帰ってしまったのだろうか?
にしてもセットをほったらかしにしとくかね??
「……普通アレでしょ? バラして持って帰るとか、誰か見張りとか……」
そういうのあるでしょ?
思いながら、なんとなく扉に手をかけ引いてみる。
しかし扉はガンッと引っ掛かり、開いてくれなかった。
あれ? 動かないのかな??
やっぱりただのセットだから。でも取っ手や合わせ目なんかはちゃんとあるし動いてくれそうなモノだけど……?
「まさか押すとか? なんてね」
奥はコンクリ。
内開きなどありえない。
笑いながら、でもなんとなく押してみる――――と。
――――ガチャリ――スゥ~~~~……。
ラッチが外れる音がして、滑るように扉が開いてしまった。
内側に。
コンクリートのある側に。
「――――え?」
まさかの展開に短い声を上げると、開いてしまった僅かな隙間から中の様子がちょっとだけ見えた。
そこは四方が濃い茶色をした木張りの部屋で、奥にカウンターと鉄格子があった。さらにその奥には……なにか渦巻きのような歪みがあって、その歪みと鉄格子の間に黒い看護服(?)を着込んだ金髪女性が座っていて、こちらを見て『にちゃり』と笑っている。
「はうぁっ!?!?!?!?!?!?」
――――ゾワゾワゾワゾワゾワゾワッ!!!!
目が合った瞬間、強烈な恐怖と悪寒が背中に走り、勢いよく扉を閉じてしまう。
「な、なに今の……!!?? き、気持ち悪い……不気味な――――人??」
いや、化け物っ!? ゾンビっ!!?? いや、やっぱりヒト!?!?!?
な、なんで!? っていうかなんで部屋があるの!!??
ハリボテじゃなかったのこの扉????
混乱したところでもう一騒動。
――――ずしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
「っ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
慌てふためく芋子の眼前、砂利の河原に一人の男が滑り込んできた。
その男はあきらかに空から滑空してここに降り立った。
そしてパリッと着こなしたスーツを正し、ビシッと決めた七三分けを整えると芋子を指さして奇妙な形に身体をよじる。
「私の名前は立木ひろし!! 誰もが
声高く叫ぶと、その変態的な男は空間(?)からショットガンを引っ張り出し、
「ゴー・トゥ・ヘベン!! 神の生贄にィィィィィィィィィッ!!!!」
――――どごぉぉぉおおおぉぉぉぉおおぉおぉぉぉおぉんっ!!!!
芋子に向けて躊躇なくぶっ放したっ!!!!
主人公、小野芋子のキャライメージです。
https://kakuyomu.jp/users/kinnkinnta/news/16818792438193679685
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