第11章 砂上の都 ②


 それは、遠方からも、きらめいて見えたが…。


 さながら、白い砂漠の中に多様な光の軌跡をまき散らす、都市夜景。

 光と緑を散りばめたガラスのドールハウス。

 わずかに屈折するグラスで囲い築かれた不夜城のようでもあった。


 各所に見うけられる強い輝きは、たいてい白金か、青み帯びた白で、

 見逃しがちな中にも、いたるところに確認できる雑多な色彩が、消えそうなほど、はかなげな瞬きで、その存在個々がそこに在ることを主張する。


 光の正体は、そこを拠点として、気ままに市内を移動する日輪や月輪、星の子たちだろう。


 たいらならされた砂地に密接しながら、一メートルにあまる高さを備える、ぶ厚いガラス底(察するに、大陽が乗ってきたプレートと同じ材質)を土台として、

 広範囲にわたって、ぐるりと、統一素材の高層障壁で囲われている。


 目測では高さを読みがたい壁の上部は、吹き抜け構造になっているようだ。

 そのへんの高空に、いくつか、布や工具、家禽、仔牛などの家畜などなど、多様な略奪物を乗せたプレートがただよっていた。

 しゃれた浮遊設備棚/もしくは倉庫というか……UFO的な印象だが、

 アミューズメント施設やコンサートホールなどに配備されそうな遊具的装置アトラクション空中そのへんを漂うバルーン、舞台装飾のごときだ。


 物理的にさえぎるものがなければ、先々にあるものが透けて見えるので、

 光を帯びた人の姿はもちろんのこと、紗幕や家財、樹木やら用水などが思いもよらない高みや角度、位置に確認できる。


 建材がことごとく透明なので、多少の屈折・重なりがあるなかにも、かなりまで外部から覗くことができ、

 場所によっては、二層にも四層にもなっているけはいがある。

 整備された緑をほどほどにうかがえる空中庭園。

 未来都市を目にしているようでもある。


「…(これ…)全部、防弾ガラス(で、できてるの)?」


 大陽が、魅入られたようにたずねた。

 その彼はいま、ともにここに到った宙に浮くプレートの縁に深く腰かけて、両足とも膝から下を、ぶらりとおろしている。



(高速で放たれ、当たぶつかる……肉体を損なうような物体対策の障壁…?)



 疑念をおぼえたヴァルスの目が、すぐそこに迫っている本拠地を映した後、客人大陽ほうへ、流される。


 迷いのもとは、大陽の単語に秘められていた音をなさぬ形容~印象~だ。


 大陽の問いそれは、誰にともなく投げられたものだったので、その場にいた面々が、おのおの、反応をみせていた。


 アスマという少年は、一瞬、奇妙な顔をしたが…、

 認識にずれを感じつつも、星真砂に対する対策としてだろうと、彼自身の既知のもとに、安易にやすく受け流し、


 残りの二人の日輪は、無理解を示すような視線を交わしている。

 そう表現されるものを知っているか否か、互いにさぐり、確認しあっているようでもある。


 それぞれの受けとりには、かなり差異があるようで…。

 その場に、ヴァルスほど、多くの情報をひろった者もなかった。



(なんだその威力の片寄った攻撃手段~それ~は…。

 つぶてとしても、そこまで威力を一点に集中させ、反動を制御抑圧するのは、能率が悪いだろう。

 マトが絞られ、殺傷力が高危険過ぎる――必要が見えないな…。

 害意でもなくば、使う者がいるとは思えない)



 彼が伴った客人~大陽~は、見たものに圧倒され、感嘆そのままに目を見開き、しばたいているが…。


 ヴァルスにすれば、星真砂から、ともに生きゆく身内を保護するのは、あたりまえのこと。


 都のほとんどが念入りに強化されたガラスでできていようと、他所の邦土の人間が、布や樹木で囲いを築くのとおなじレベルの認識・感覚なので、

 どう甘く見積もろうと、そこまで驚くには値しない。


 ともあれ、みずからが手がけた造形物に向けられた感想であることに違いなさそうだったので、陽都のあり方~それ~について語る。


〈(おまえの言う)弾丸たまたぐいをふせぐ予定はないが、星真砂の侵入は遮断できるからな。

 あったもの過去の構造をあらかた造り換えるのは、俺でも結構な大仕事だったが――…

 (星の子を巻き込まない為には、計画的に住んでいる者をあっちに寄せ、こっちに寄せしなければならなかったからな。

 天空そら直接臨むじかに感じるべきものだし、動線を維持する置く意味でも…)

 …――物理的な穴も多いが、配置してない部分は、俺や日輪が防御を固めている〉


「これだけ広いんだから、隣に築いて、移住すればよかったんじゃないの?」


〈!! それは思いつかなかったな…〉


 もたらされた意見に、発見と驚きそのままに口走ったヴァルスが、真剣なようすで、そうするにいたった由縁、いま、思いついた考えを言葉にしてゆく。


〈しかし、ウエシュラでは、代々、ここが陽都だ。

 多少の拡縮かくしゅくはあっても、都の軸中心変えない・変えられない変わらない――

 だが、周囲に築いて、内部を後で造り換えるという~そうゆう~手段があったか…

 (小知恵の利く小僧だ…)〉


 大陽としても、感服感心されれば、悪い気はしない。


 くすぐったく思いながらも、表面上は平静を維持し、心の内側うちで、うそぶいた。



(これだけひらけた土地なのに、思いつかない方がおかしいだろ…。

 それにしても…。

 この世界ここの都って、センシュウ以外は、存在する場所が決まってるのか…)



 照れと喜色は収めて、その男の発言の裏にほの見え感じとれた事実を分析してみる。


 どうやら、ウエシュラでは、人の居住区がこれひとつしか無いらしい。


 そうあるだけに、他の邦土(の都)に比して、規模が桁違い高水準なようだ。

 作地と住区が折り重ねられた、ひとつの大きな人工都市、巨大マンションのごとく存在している。


 ノウシュラでは、結局、行かない選択をしたし、ウエスノウにおいては中途脱線して、たどり着くことはなかった。

 大陽が、陽都といわれるものを目にしたのはこれが初めである。

 だから、ほかを知ってるわけでもなかったが、様相や規模にかなり差異があるらしいことは、その発言に秘められた印象から察知できた。


 大陽が知る日本の都市とは比べるべくもないが、

 少なくとも、そのガラスばりのテーマパークのような都に、七〇〇〇に満たない個体が、悠々ゆうゆう暮らしていることが予測された。

 層をなしている上に、かなりの面積を占めているので、密度はそんなに高くないようだが…。



(なんとなく、なっとく。

 いっけん、そのへんと変わらないようでも、たぶん、陽都ここは…。

 陽の宮の能が最大限に発揮され安定するどこよりも落ち着く場所なんだな…)



 あくまでも、それを見ておぼえた直観なのだが、不思議と疑念や迷いが生じない。

 大陽は、そこに確実な悟りめいた感覚……感触をおぼえていた。


「…(それ)で…、入口はどこ?」


〈上だ〉


〈上から入る〉


 答えたのは、年配と思われる日輪、二人だ。

 つられるように見あげても、そそり立つ障壁の表面は一様につるりとして、それらしい開閉部など、見あたらない。

 見える範囲に限りはあるが、存在しそうもない印象である。



(つまりは、この壁を乗り越える、と…。

 いわれてみれば、ここの住民、外に出ること、しないんだろうな……

 外は、星真砂が舞っていて危険で、出る理由もなくて――

 月輪は別として、日輪と陽の宮がいれば、どうとでもなるわけだし……ん?

 もしかしなくても俺、一度この中、入ったら、思うように出られなくならないか?)

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