その8、ノート
この家の最奥に、あまり人が立ち寄らない静かな部屋がある。
ここは、体を壊した家族が寝かされる部屋だと聞いた。
そしてそのまま、ここで亡くなることも多かったし、亡くなった家族を安置しておく場所でもあると聞いた。
爺ちゃんは晩年、この部屋に籠もりっきりで何かを調べていたという。
図書館に出向いては、何やら古い本を借りてきて座卓に広げて、うんうんうなっていたという。
俺は爺ちゃんが残した手がかりが無いか、この部屋を調べていた。
部屋の中央にある座卓に、夕暮れのオレンジ色の日差しが斜めに差していた。
その部屋にある戸棚から、数冊の古いノートを見つけた。
爺ちゃんが遺したノート、あの呪いの唄を研究した成果だった。
幼い頃に長生きはできぬと聞かされ、不安に思った爺ちゃんが、ひとり孤独に調べていたんだと思う。
一冊のノートを開いてみる。
この家の家系図らしき図が、ペンで雑に記されていた。
この家では、男は皆殺しにあっている。
もちろん、人は死ぬ。
しかし、死に方が異常なんだ。
事故や病気、自然死とも言えないものがいくつも記されている。
その家系図には、虫の食った穴のように、ぽつりぽつりと行方不明の文字がならぶ。
なぜそうなったのか、過去に何かあったのかは、分からない。
言えるのは、この家は女系になるしかなかった歴史がある、ということだ。
爺ちゃんはいったい何を調べ、何を知ったのか。
そして、どこへ行ってしまったんだろうか。
俺も死ぬのだろうか。
いつだろう。
明日か、今晩か。
お願いだ、爺ちゃん。
俺を助けてくれ。
すがる思いで、別の一冊のノートを開く。
パリパリに乾燥した紙、茶色く変色し、めくる指に緊張が走る。
古い文字で、全てのページにびっしりと何かが書き込まれていた。
文体が古いのか、達筆すぎるのか、俺には文字が判別できない。
たまに図が描かれているが、多分何かの御札の模写なんだと思う。
1ページ、そして1ページとノートをめくっていく。
あるページに目が止まった。
和歌、だろうか。
学校の授業で、こんな感じの文章を見たような気がする。
1枚の紙の中央に、一遍の和歌だけが書き込まれていた。
「たまずさが……とけぬうち……すみのはに……とうとうと……おかざりを……すべらかす」
それを見た瞬間、俺は目が離せなくなった。
胸が苦しくなる、息が荒くなる。
これはもしかして、呪いの唄じゃないのか?
この家の男たちを、数百年間苦しめてきた唄、根絶やしの唄。
これが、そうなのか。
・・・。
ノートを開く手が震える。
その手に、そっと誰かの手が触れた。
真っ白い手。
氷のように冷たい、小さな手だ。
顔を上げる。
眼の前に、女がいた。
十二単みたいな、何枚も重ねている真っ白の着物を着て、髪はとても長く地面についている。
その色は、濡れたカラスのようにしっとりと真っ黒だ。
大きな目、少し幼さを残した頬。
その女が、微笑んでいる。
何か喋っているが、よく聞こえない。
たくさんの単語と単語の間の、「根絶やし」という単語だけがなんとか聞き取れた。
不思議と、恐ろしくはなかった。
まわりの景色が、ぐるぐるとまわり始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます