第28話『三人の歌手』

『ブラボーも無し』


その歌手が歌い終わると

沈黙があった


ブラボーも無し

拍手も歓声も無し

観客は座ったまま

スタンディングオベーションも無し


彼女の歌声が沈黙を作り

空間を覆っていた


歌手が深々と礼をしてステージから去ろうとしたとき

観客から、まばらな拍手が起き


やっと気づいた観客が大歓声を始めたころには

歌手は、もう、ステージから消えていた


~~~~~~~~~~


『サバンナまで届いた』


自由奔放な精神で

その人は歌い出す

周囲を振るえさせ

常識をおののかせる


開放された歌声に

開放されたスタイル


大人は目をしかめた

自由奔放な精神が歌いだす


大人は耳を塞ぎ

ドアを出た


開放された歌声は

海を遥かに超え、サバンナまで届いた


ヒョウが耳をそばだてた


~~~~~~~~~~


『天才歌手』


100年にひとり、という天才歌手がいた

心臓を絞り出すように声を出す

マイク無しで、ホール全体に声を届ける

フォルテでもピアノでも


魂を破裂させるように声を出して歌う

誰もが、一度は聴きたいと思っている


問題は、その歌手に見合った歌詞があるかどうか

歌手に手玉にとられる可能性がある

手玉に取られるなら、まだしも、歌手の視界にも入れない歌詞が数多ある


歌手に耐えられる歌詞が無い

そのための詩があるのか

それに見合うだけの詩があるのか


100年にひとり、という天才歌手が

待っていた


その詩を

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