第18話

子供の頃のことが思い出されました。

彼女の後をついて回り、カエルがピョンピョン飛び跳(は)ねるような娘の歩き方を真似(まね)たあの少年、それを止めもしないで笑っていた同級生。


特に意地の悪い子供達は、娘を取り囲み、彼らの間でひそかにつけていたあだ名を大声で呼んでは、はやし立てたりしました。


「カエル、カエル!さぁ、鳴いて見ろ!クワックワックワッ!ハハハッ」

弱い者に対する彼らの残酷さときたら! よってたかって小突き回すのです。


少年達の薄笑いや高笑いの中に、娘は独り置かれ、しゃがみ込んでは泣きました。何も言えませんでした。そうするにはあまりに気が弱く、内気でもあったからです。


ある時などは本物のカエルが、娘の机の中に入れられていました。数匹のカエルは、空気穴をあけた袋の中で動き回っていました。


何か変な音がするので、娘が恐る恐る机の中をのぞき込んだところ、袋の中で動き回っている何かが見えたのです。

それだけで娘は、「キャッ」と叫び、泣き出してしまいました。


くつくつくつと、それをしかけた子供達は、いかにも面白そうに顔を歪(ゆが)めて笑いました。

そのうえ一人の少年が、もう一匹隠し持っていたカエルをつまんで、娘の目の前に持って来ると、「さあ、君のお友達だ!」と言って、ニヤニヤ笑いました。


娘が怖がれば怖がるほど少年は面白がってカエルをつきつけ、「一緒に散歩してはどうかね?」と言い、自分でピョンピョン飛び跳(は)ねて見せました。


こうした心ない子供達の行為や言葉が、どれほど娘を傷つけ、苦しめたことでしょう!

一個の、弱い、臆病な、それでいて、優しく、清純で、はかないまでに美しい魂を、どんなに怯(おび)えさせたことでしょう!


作家は娘が足の悪いことをひどく気にしていることを、痛いほど感じました。

なんとかまともに歩こうと、少しでも足の悪いことが目立たないようにしようとしているらしいのですが、そのために却(かえ)って動きがぎこちなくなっているのです。


作家は娘が気の毒でしようがありませんでした。

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