第7話
無駄話(むだばなし)の合間に、彼らは、どうしてもお金が必要なことを訴(うった)えました。家の壊れたところを治(なお)すのに費用がかかるので何とか出来ないだろうかとか、子供を私立の医学部にやりたいのだが、経済的に苦しいので助けてもらえないだろうか、とか。
父は、家にいることは少なかったのですが、母親に、そういう人達を出来るだけ助けてあげるようにと、頼んでいました。それで、母親は胸の中では不満に思いながらも、彼らにお金を渡しました。彼らはいくらかのお金を借りたり、貰ったりすると、用はすんだとばかりに、晴れやかな顔でお礼を言っては、そそくさと帰って行きました。娘は、そういう人達が、どうしても好きになれませんでした。
そういう人達は、娘の家にお金が無くなると、誰も寄りつかなくなりました。娘と母親が困っているのを知っても、助けようともしませんでした。「本当にかわいそうにねえ」と口では言いながら、娘達の不幸を心の奥の奥では楽しみながら、おしゃべりをしたのでした。彼らは、実際は人の不幸を楽しみながら、自分のことを同情心の厚い、優しい人間だとすっかり満足して、いい気持ちになりました。
珍しく父がいなくなった後、知り合いの一人であるAさんが訪ねて来ました。顔の大きな、笑いながらもけっして笑わない目をした人でした。Aさんは、父がいなくなって大変残念だ、と言いました。
そして、「奥様も色々と大変でしょう。あまり無理をなさってはいけませんよ」と、例の笑いながらもけっして笑わない目でチラッと母親のほうを見ながら、優しい言葉をかけました。
けれども娘には、Aさんが母親の身体を本当に気遣っているとは、とても思えませんでした。父のことにしたって、やっぱり、本気で心配しているとか、いなくなって残念だとか思っているようには見えませんでした。
Aさんは、色々と父のことを話したりしながらも、部屋の中をキョロキョロと見回していました。明らかにその目は、何か金目(かねめ)のものは無いかと、探し回っているのでした。
しかし、金目(かねめ)のものが何も無いのがわかると、急に興味を無くしたらしいようすで、「いや、これはお邪魔(じゃま)をしましたな」と言い残して、挨拶(あいさつ)もそこそこに帰って行きました。
娘と母親は、大変嫌な気持ちになりました。
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