構成も文章もうまい、じわじわ系の和風ホラー

一見関係ない散乱した情報が、全部きれいにまとまっていくのがまずうまい。
神話や伝承がどのように起り、変化し、広まっていくかの過程に文化的なリアリティがあるホラーもあまりないですね。
改変されたものではない、たしかな知識に裏打ちされている故できることです。
脳内で相手を勝手に補完してしまう、読者の思い込みを利用したトリックもいい。すっかり騙されました。

総じて、人間と文化への理解が並外れて高い作家です。
迎合への批判的視線を持つため独自色があり、続く作品も気になるところです。

二つだけ気になった点もあります。
怪文書は模倣であるよりも、作者オリジナルの文書だった方がよかった。
この脚色は、差出人をやや陳腐にしたと感じます。
また最後の一節は、全てを赤裸々に書きすぎた感はあります。わからないまま取り残されることへの配慮と思いますが、そこまで書かなくとも…とは思いました。
もう少し余韻を楽しみたかったな、という読後感です。

逆に言えば他の全てがおもしろく、事実確認して理解を深めるため、もう一度最初から読みたくなる物語です。