馴染みのない方言で語られているにもかかわらず、どことなく懐かしさを感じさせる、実にノスタルジックな書きっぷりが見事です。
その書き方がより「狸っぽさ」を強く感じさせるのですから、なかなか面白いものです。
そんな狸……しかもお腹に子を宿したお母さんが化けたのは、まさかの甲子園を目指す高校球児……!
発想が斜め上です。
そして、無理するお母さんがなんともいじらしい!
高校球児に化けたばっかりに……。
そして、その後の展開がなんとも切ない。
やるせなくて、惨めで、それでもどこか誇らしい。
そんな狸たちの不思議な物語です。
読んでいてどこか心の内側がぽんぽこ……じゃなかった、ぽかぽかするようなお話でした。
独孤琢という人間名の不思議な高校球児の物語が、徳島の自然と人情を舞台に繰り広げられる本作。開幕早々、「池田のお蔦狸」から「山城の豆狸」まで、四国ならではの狸伝説が次々と飛び出し、まるで地元の野球部が全員狸に化けていたとしても驚かない気分にさせられます。
主人公・お艶狸の修行と母としての葛藤が見どころです。狸の変化術が野球部の中でどのように活かされるのか、そして次々と訪れる試練を彼女がいかに乗り越えるのか、読んでいて心が揺さぶられる瞬間が満載です。しかも「甲子園」という舞台が狸の物語にこれほどぴったりくるとは!と思わせる斬新な設定に驚かされます。
物語はコミカルな展開にとどまらず、深いテーマにも触れています。「狸」という非人間的存在を通して語られる、女性の苦悩や社会の不条理は、人間である読者の心にも響くものがあります。それでも最後には、笑いと涙のバランスが絶妙で、徳島弁の味わい深いセリフがさらに物語を引き立てます。
笑いと涙が絶妙なバランスで織り込まれたこの物語、読めば読むほど狸たちの賢さとたくましさに感動するでしょう。そして最後に、やっぱり狸はただの化け物ではなく、家族を守る強い存在なんだなと感じられる、狸たちの修行も野球部の奮闘も応援したくなる一作でした。